働く広場2019年4月号
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28働く広場 2019.4研レ究ポ開ー発ト就業経験のある発達障害者の職業上のストレスに関する研究ー職場不適応の発生過程と背景要因の検討ー  発達障害者支援法の施行以降、知的に遅れのない発達障害(知的な遅れが軽度である者も含む)が明確に支援の対象となったことを端緒として、“発達障害”に対する社会的な関心は高まっています。最近では一般枠で就職をした後に職場不適応から発達障害が疑われたり、診断に至るような事例の報告が散見されています。 発達障害という場合、日ごろから支援にたずさわる方は何らかの診断がある状態をイメージされるかもしれません。しかし近年、発達障害のある人は人口の数%~10%程度であることが推定されており、実際に診断がつくのはその一部の人々であることがわかっています。発達障害は専門医療機関が少ないこと、また成人期では状態が複雑化することで誤診や過剰診断がなされてしまうことも指摘されています。加えて、対象者に発達障害の特性による困難があっても診断基準に合致しないケース(グレーゾーン)も障害者職業総合センター 障害者支援部門※1 本研究(資料シリーズNo.100)は、障害者職業総合センター研究部門のホームページに掲載しています。http://www.nivr.jeed.or.jp/research/report/shiryou/shiryou100.htmlあり、支援が必要であっても特性に応じた支援を提供するための相談窓口に結びつきにくく、それらをどうコーディネートし、提供するかといった“アプローチのむずかしさ”の問題があります。 そこで、本研究(※1)では文献調査とヒアリング調査を通して、成人期以降にストレスや職場不適応によって発達障害が顕在化する過程に焦点をあてて支援の課題整理を図り、職業リハビリテーションサービスに期待される支援や機能を検討することとしました。  発達障害と職場等のストレスに関する文献調査を行ったところ、いくつかの知見が確認されました。 ①発達障害社員がメンタル不調を招くきっかけは、環境の変化やよき理解者の消失である。②発達障害の人々はその特性ゆえ、ストレスと直面する機会が多く、ストレスの受け止め方や対処の仕方が適切でないため環境の不適応を起こしやすい。③自閉症スペクトラム者は、過去に体験した日常的な深刻とはいいがたい不幸な出来事についての想起にともなう情動反応が、年余にわたってもなお減衰しない。④自閉症スペクトラム者においては、胎児期以降に始まる脳機能の非定型発達によって、一般的なストレス対処を行ううえでの生物学的脆ぜい弱じゃく性を有すると考えられる。⑤発達障害者の職場適応は、本人の職種、職位、職務内容、就業する職場の業種、規模、そのほかの就労環境によって良否が大きく異なる。 発達障害は「環境」と「個々の特性」の相互作用が適応状態を大きく左右するとの見方が、いずれの知見からもうかがえました。 これら発達障害者の障害特性と環境との相互作用による適応・不適応のあり様は、一般労働者の職業性ストレスモデル(図1)に当てはめることもできます。適応の可否は、対象者の個人要因のみならず、職場のストレッサーやストレスの緩衝要因など多数の要因の影響で成り立つとの見方が重要となります。 JEED 資料シリーズ 100 検索1.はじめに2.発達障害者の職場での不適応の背景

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