働く広場2019年4月号
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2働く広場 2019.4職場定着のための「トリセツ」と「シエスタ」職場定着のための「トリセツ」と「シエスタ」 ――45歳で発達障害と診断されるまでの経緯を教えてください。稲葉 幼少期から「ちょっと変わっている」といわれ、コミュニケーションのむずかしさも感じてはいたのですが、特に就職後は、特定のことが覚えられなかったり、勤務中に「しんどく」なることがよくありました。そんななか20歳のときに交通事故で重傷を負い、リハビリを受けたのを機に理学療法士を目ざすことにしました。最初はカイロプラクティックの学校で3年間学び卒業、病院などの助手として働きながらリハビリテーションの専門学校で4年間学び卒業しました。国家試験には一発合格できましたが、35歳でのスタートでした。小児リハビリの財団法人や介護老人保健施設、訪問リハビリなどの臨床現場を経験したあと、教員になりたいと一念発起し、妻の応援も受けて43歳で大学院に社会人入学しました。 翌年には専門学校の教員に採用され、大学院に通うかたわら順調に仕事をしていましたが、45歳になって初めてクラス担任になったとき、大きな試練に遭いました。学生をまとめることができず、学級崩壊を招いてしまったのです。そのころちょうど学校教員向けに「発達障害のある学生への対応」というカウンセリング研修が行われました。そこで発達障害の可能性を判断するためのチェックシートを見て「どれも自分に当てはまる」と気づきました。すぐにスクールカウンセラーに相談し、医療機関に行って初めて広こう汎はん性せい発達障害と診断されました。これまで生きづらかった理由がわかり、むしろホッとしました。二次障害も表れていたので、医師から休職をすすめられました。数カ月で復帰するつもりでしたが、妻や医師からの助言で、あせらず大学院の卒業を優先させることにしました。――7年前、大学教員の採用面接でご自身の﹁トリセツ︵取扱説明書︶﹂を配布したそうですね。稲葉 私はその1年前に初めて障害の診断を受けていたため、職場にも理解してもらう必要があると思ったのですが、口下手なので説明がむずかしい。そこでA4用紙1枚に「私のトリセツ」という題名で自分の特徴を印字したものを、面接官に配りました。以前参加した市民講座で「思ったことを言葉にしてみましょう」という話が心に残っていたのです。 内容は「私はこのようなときに力を発揮します」、「これに直面すると、力が発揮できなくなります」、「職場での5年後の目標」などのテーマに分け、それぞれ短い文章を箇条書きにしました。例えば「力が発揮できなくなる」ことについては、「一度に複数のことをお願いされると一部のことしか覚えておらず仕事に支障をきたすことがあります。︵中略︶一つの作業が終わってから報告させていただき、その際に次の仕事を指示岐阜保健大学 短期大学部 リハビリテーション学科講師・理学療法士稲葉政徳さんいなば まさのり 1965(昭和40)年、埼玉県生まれ、滋賀県育ち。1987年、国士舘短期大学国文科卒業。2000 年(平成12)年、中部リハビリテーション専門学校卒、理学療法士免許取得。2008 年、畿き央おう大学大学院健康科学研究科修了。小児から高齢者の臨床現場を経て、専門学校の専任教員となる。2012 年より現職。発達障害サークル「東ひがし近おう江み凸でこ凹ぼこネットワーク」主宰。採用面接で「トリセツ」配布45歳で発達障害の診断

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