働く広場2019年4月号
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3働く広場 2019.4くだされば幸いです」や、「細かく数字が羅列された書類は苦手で、パニックに陥ることがあります。数字処理の仕事をなるべく避けてくだされば幸いです」などと書きました。 その場で大学側から「できるだけサポートします」といわれました。私の障害を理解してもらえたのは、うれしかったですね。その後は、ほかの企業の障害者雇用担当者から「トリセツの書き方を教えてほしい」と依頼されたこともありました。  ――大学教員へ再就職するまでは、どのように過ごされたのですか。稲葉 専門学校教員を休職し、しばらくして動けるようになると、朝から近くの大きな公園に行って歩いていました。二次障害克服のための運動療法です。意識したのは力を抜いて、気持ちよく歩くこと。高校生のころ興味があって受講していた、ある通信教育の「自律訓練法」も役立ちました。 発達障害であることを自覚するなかで、それまで私自身が学んできたことや体験から、疲労しやすく体調を崩しやすい精神障害・発達障害のある人にとっては、特性を含めた自己理解と周知のための「トリセツ」とともに、自分の心身の状態を把握して自ら整える「セルフコンディショニング」も非常に大切だということを改めて実感しました。――いまは大学教員として勤続7年になりますが、働き続けるための秘訣はありますか。稲葉 働き始めてからも試行錯誤の連続ですが、周囲の理解もあり続けてこられました。事前にトリセツを配布したからといって、何もいわずに全面的にサポートしてもらえるとは思っていません。私は数字の羅列を見るのが苦手なので、成績表を確認するときは同僚の先生に「一緒にチェックしてもらえますか」と頼みます。たまに仕事のミスで上司から注意もされますが、重大な過失につながらないためにも、きちんと指摘してもらう必要があります。 一方で、精神障害・発達障害のある人たちは、自覚がないまま「過集中」やストレスで体がこわばり、肩こり・背中の張り・腰痛などを引き起こした結果、体調を大きく崩すというケースが少なくありません。一番よいのは、本人が「少し休憩を取らせてください」と適てき宜ぎ申し出ることですが、説明が得意ではない人も多い。場合によっては事実と少しずれた訴えをする可能性もあります。上司の方は、できれば先入観を排除して本人の訴えに耳を傾け、休憩を取らせるか医療機関の受診をすすめるよう判断する手助けをしてもらえたらよいですね。 長期的な職場定着のためには、なによりも基本的な健康維持が欠かせないと思います。私がおすすめする具体的な方法は「仕事や作業の合間に、心地よさを感じる軽い体操やストレッチを適宜行うこと」です。日ごろから勤務中にストレッチや休息の時間をつくるのもおすすめです。就業前などにラジオ体操をする会社がありますが、デスクでいすに座りながらでもできる簡単な体操なども、勤務の合間にやってもらえたらと思います。 ちなみに私は「脳を休ませる」ために、職場の了解を得たうえで、1日数回「シエスタ」の時間をつくっています。椅子を二つ用意して片方に座り、もう片方には足を乗せ、しばらく目を閉じるというものです。最近では、シエスタを取り入れている学校などもあると聞いていますが、企業でも障害の有無に関係なく、ぜひ導入してみてほしいですね。  ――稲葉さんは学生支援の担当もされているそうですね。稲葉 ちょうど2018年度から、「困り感」を抱いている学生の支援を担当することになりました。学内での学業や生活のサポートをしたり、地元の就労移行支援機関と提携しつつ、キャリア支援プログラムの受講をすすめたりするなど、学生との間のコーディネートもしています。当事者だからこそわかる部分もあるというのが私の強みです。実際の支援は、ほかの教員からもサポートしてもらっています。今後は提携先の就労移行支援機関などで、利用者が自分で心身のコンディションを整えられるような支援もしていきたいですね。――ありがとうございました。「困り感」のある学生支援も自分の心身の状態を把握し整える

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