働く広場2019年5月号
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10働く広場 2019.5覚えた」という手話を介し、冗談も交えながらスムーズに会話をしていた。 エプソン本社内にあるミズベの諏訪工場にもアビリンピック出場者がいる。訪ねたのは高速ラインインクジェットプリンターを使った印刷部署。短時間で大量に印刷できるため、主に社内報や労働組合機関紙、生活協同組合の印刷物などを取り扱っているそうだ。複数のプリンターを同時に操作していた市いち川かわ尚たか正まささん(39歳)は、入社18年目。全国アビリンピック沖縄大会では「DTP」種目で二度目の全国大会への出場だったが、残念ながら入賞には届かなかった。大会の感想を、リーダーの渡わた邉なべ則のり夫おさんとの手話を通じて伝えてくれた。「レベルが高くて、まだまだ自分の実力所に通っていたころから同種目に出場しており、入社後に「今年も挑戦してみる?」と声をかけられ「はい」と即答したという。練習場所を確保してもらい、毎日1時間以上パッキングの練習に取り組んだ。平林さんは「全国大会から戻ると新聞などに出たので、学校時代の先生や友人から『おめでとう』との連絡が来てうれしかったですね。金賞を取った種目には参加できなくなるので、立候補する同僚がいたらサポートしてあげたいです」と語ってくれた。いまの仕事については「環境保護活動や社会貢献の一部になっていると思うと、やりがいのある仕事だなと実感できます」と話す。指導役の半はん澤ざわ正まさ則のりさんに話を聞いた。「出場種目と実際の仕事内容は直接的には関係はありませんが、競技で入賞を目ざすことで日ごろの仕事のモチベーションも、ぐっと上がってくることがわかります。周りも彼が練習に打ち込めるよう『サポートしよう』という一体感が生まれます」リーダーを務めている武たけ居い晶しょう子こさんは、「実際にメンバーが結果を出す様子を見て『自分も挑戦したい』と相談してくる人もいます。一方で『たいへんそうだから無理』と尻込みする人も当然いますから、無理にすすめることはしません。まずは毎日、みんなで楽しく働けることを大事にしています」と笑顔で話してくれた。 次に、湖畔工場の製品第2チームと呼ばれるフロアを訪れた。10人弱のメンバーが一人ずつ大きな作業デスクに座り、複雑な作業に黙々と取り組んでいた。ここでは主に下肢障害や聴覚障害のあるメンバーが、基板実装や時計部品の加工前の段取り作業などを行っている。電子回路基板に向き合い作業していた向むかい山やま雅まさ士しさん(40歳)は、2013年全国アビリンピック大会「電子回路接続」種目で金賞に輝いた経歴を持つ。2017年度には、当機構から優秀勤労障害者「理事長努力賞」の表彰を受けた。はんだごての高い技術を持つ向山さんは「ときには計30時間ぐらい集中して取り組む案件があるため苦労しますが、達成感も大きいですね。いまはリーダーとして、業務請負の見積りから出荷までのとりまとめも任されています」と笑顔で答えてくれた。向山さんの隣で別の作業をしていた藤ふじ森もり千ち恵えさん(60歳)も「電子機器組立」種目でアビリンピック全国大会に3回出場し入賞している。熟達した職人技を買われ、定年退職後も再雇用されたそうだ。聴覚障害があるが、向山さんが「独学ではんだごての職人技も手話のできる社員に囲まれ平林さんの指導役、半澤正則さんリーダーの武居晶子さん基板実装の作業をする、リーダーの向山雅士さん向山さん(手前)と手話で話す藤森千恵さん(奥)

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