働く広場2019年5月号
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14働く広場 2019.5『障がい者の就活ガイド』著者 紺野大輝  新卒での一般採用枠で入社したホテルを退社後、ハローワークに行きました。そこで私は初めてハローワークに「障害者窓口」があることを知りました。「障害者しか応募できない求人があるのだ」と目から鱗うろこでした。新卒時の就職活動では苦労したので、今回は、健常者と比較されることもなければ門前払いもない「障害者採用」で就職活動することに決めました。 さっそくハローワーク主催の障害者向け合同就職説明会に参加し、手あたり次第にブースを回りました。実際に話をしてみると、障害を理由に断られることがないばかりか、どこも話をきちんと聞いてくれるのが印象的でした。と同時に、違和感を覚える点もありました。 まず職種を見ると、サポート業務・補助業務が圧倒的に多いことに気がつきました。「障害者は健常者のサポート役にしかなれないのか」。私は第一線で活躍したいと思っていたので、大きな疑問が湧きました。 次に、有期雇用契約が多かったことも気になりました。現在では、5年以上の勤務をすれば無期雇用を申し込める無期雇用転換ルールがありますが、当時はまだそのような制度はなく、更新回数の上限が決まっている企業もありました。「もし、そのような企業に勤めたら、数年後にはまた就職活動をしなければならない。それをくり返して高齢になったとき、就職先はあるのだろうか」。先々を考え、不安を覚えました。 しかし、不安を抱えつつも先に進む必要があるため、またこれからの人生・生き方の指針を決めるためにも、どんな就職先がいいか、ポイントを絞って応募することにしました。①補助的な仕事ではなく、主要な役割を果たせる仕事であること、②無期雇用での募集であること、③身体的負担の少ない内勤業務であること、の3点です。また、面接の際などには「タイピングのスピードは健常者の半分程度です」、「10㎏以上のものは運べません」など、あえて不得手なことも具体的に伝えるようにしました。  自分が納得できる企業に出会うため、民間の障害者向け求人媒体も利用し、多くの企業に応募しました。いろいろな企業に応募をすると、その企業がどのような気持ちで障害者雇用に取り組んでいるかがわかります。障害者雇用に前向きで積極的な企業、義務的に行っている企業、どこか差別的な印象を受ける企業など、実にさまざまでした。 仕事内容はもちろん重要ですが、「職場環境」もたしかめるようにしました。例えば、廊下ですれ違う従業員の表情、エレベーターやトイレなどでの会話など、面接以外の場所も注意深く観察するようにしました。会社の雰囲気というのは、さまざまなところに表れます。自分も選ぶ立場であるということを忘れず、細部までチェックするようにしました。  最終的に選んだのは、現在勤めている従業員数約1800人の情報提供サービスの会社です。決め手となったのは、正社員としての採用であったこと、また、障害者枠での採用でしたが、入社後は障害のない従業員と同じように働けることなどです。高い成果を求められる一方、やりがいもあります。2006(平成18)年に入社し、最初はデータ構築の部門に配属されました。そして、2015年に人事部に異動となり、現在は人事業務全般を担当しています。 働きやすい環境でやりがいもあり、気がつけば入社から14年が経ちました。ラッシュを避けて通勤したり、整体に通ったり、週1回フィットネスクラブでトレーニングをするなど、1日でも長く働けるように自分でも工夫しながら勤務しています。 そんなとき、個人的におつき合いのある企業の社長さんから「障害者就労移行支援事業所を始めたので、利用者にこれまでの経験を話してほしい」との依頼をいただきました。私は、「経験が役に立つのなら」と、喜んで引き受けました。 次回は、そのことについて書きたいと思います。              つづく一般採用と障害者採用、両方を経験してpart.2紺野大輝(こんのたいき)1976(昭和51)年、札幌市生まれ。「脳性麻痺による脳原性運動機能障害(両上肢機能障害)2級」という障害を持って生まれる。2000(平成12)年法政大学卒業後、一般採用で都内老舗ホテルに入社、購買部で5年間勤務する。2006年、障害者採用で転職。2016年、『障がい者の就活ガイド』(左右社)を出版。2018年8月22日、朝日新聞「天声人語」で紹介される。公式ホームページ:http://konnotaiki.net/◎生き方を決めよう◎企業の姿勢もさまざま◎転職、14年間勤務*※第1回(2019年3月号)、第2回(2019年4月号)は、当機構ホームページでもご覧になれます。第 3 回

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