働く広場2019年5月号
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28働く広場 2019.5研レ究ポ開ー発ト障害者雇用の質的改善に向けた基礎的研究〜様々な立場から障害者雇用の質について考える〜  近年、障害者の就労意欲の高まりや企業のコンプライアンス、社会的責任への関心の高まりなどを背景に、障害者雇用数は着実に増加している状況にあります。 そうしたなか、2016(平成28)年4月から雇用分野における「障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮の提供義務」が施行され、これまでの障害者雇用率制度による量的拡大に加えて、障害者雇用の在り方(質)が問われる状況となっています。しかしながら、障害者雇用の質の視点や評価の手法に関する取りまとめはこれまでになされていないところです。そこで、障害者職業総合センターでは、障害者の雇用の質に関する知見等を把握するために、専門家ヒアリング、企業ヒアリング、先行文献および当事者手記から収集した情報を整理して、障害者雇用の質に関する視点をまとめました。本稿ではその一部を紹介します。   今回の調査結果では、障害者雇用の質に関する専門的・客観的立場からの知見等を把握するため、障害者職業総合センター研究部門 事業主支援部門7名の学識・実務経験者に対するヒアリングと、100人未満規模企業3社、100~1000人未満規模企業3社、1000人以上規模企業3社の計9名の企業担当者にグループインタビューを実施しました。また、障害当事者の立場からの知見を把握するため先行文献および障害当事者手記について検索を行いました。 収集した情報を整理した結果、大きく分けたところ7分類、233視点、392の項目(捉え方)となりました。分類別の視点の内容は表の通りです。  学識・実務経験者からはCSR(企業の社会的責任)の観点、ESG投資(環境、社会、企業統治に配慮した企業への投資)としての障害者雇用、ダイバーシティ経営の推進、障害者雇用による地域活性化などの視点が得られました。 企業からは、社会貢献の実施、家族の希望への対応、実習の受入れ、障害者の雇用管理方法への期待など、障害者雇用を継続していくための環境づくりに関する視点が得られました。 障害当事者からは、障害者が働くことへの地域社会への理解を求める視点が得られました。 学識・実務経験者からは、障害者雇用を経営戦略として位置づけることや、障害のある人と障害のない人との公平さを目ざすための環境づくりとして、労働条件、賃金制度、機会の均等、人事異動など各種制度を確立することなどが得られました。 企業からは、特に、障害者のよりよい雇用のためには、企業理念のもとに、管理職をはじめとした社員の障害理解の必要性や人事・給与制度を同一化することなどが得られました。 障害当事者からは、安全衛生面から職場環境の改善や公平な労働条件に対する視点が得られました。  学識・実務経験者からは、キャリアビジョンのもとに研修システムを充実させたり、管理職への登用や適正な賃金の支給により戦力化することなどの視点が得られました。 企業からは、障害の特性に合わせた職務の提供に関して多くの意見がありましたが、そのための能力の見極めや適正な業績評価の必要性などの視点が多く得られました。 障害当事者からは、仕事により社会性の向上につながることや、会社に貢献したいなどの意見のほか、障害への配慮を求める視点も得られました。1.はじめに(1) 社会からの期待への対応(よりよい働き方、企業経営など)(2) 障害者雇用の位置づけと全社的な取組み(3) 障害者のキャリア形成と能力の発揮(戦力化)2.調査結果の概要

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