働く広場2019年5月号
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5働く広場 2019.5話をする姿は何とも頼もしいです。『働く広場』でも、こうした障害者たちの働く姿を全国に紹介してきたことは意義がありました。村木 誌面の写真の力は大きいですね。私が忘れられないのは「障害者雇用支援月間ポスター原画コンテスト」写真の部の作品で、お給料袋を頭の上に両手でかかげて、とっても嬉しそうで誇らしい顔をした写真です。ちゃんと働いて、その評価としてお給料をもらうような活き活きとした姿を、『働く広場』ではていねいに見せ続けてきましたね。 松矢 1987年に身体障害者雇用促進法が障害者雇用促進法に変更され、知的障害者も実雇用率にカウントされましたが、このころ地域障害者職業センター(以下、「地域センター」)で始まった「職業準備訓練(※1)」という取組みも斬新でした。就職にあたり、コミュニケーション、体調を自身で管理する力など、働くうえでベースとなる職業準備性や、基本的な労働習慣を体得することが必要であるとの考え方が、学校現場にも反映されていきました。一方、大企業では、当時の法定雇用率1・6%を達成するための採用を知的障害者にも広げ、彼らの能力を認知していったわけですから、大きな変化でした。村木 義務を課すことで、形式的に雇用することにならないかという批判もありますが、やはり日本の障害者雇用の実現に、雇用率は大きな役割を果たしてきたと思いますね。私が企業の方に説明するときには「雇用率制度は宿題です」といっています。障害者雇用とはどういうものか、障害者に志の方々が「障害者の雇用を楽しく考える会」という会を立ち上げ、順番に見学・研修会を開きました。私は特別会員にしてもらい毎回出席しました。同行してもらった進路指導の先生方は卒業生の変わりようを目の当たりにし、企業側が彼らの働きやすい工程や安全性を考えた職場環境を整えていることも知りました。そこで知的障害者の職業教育にも企業からアドバイスをもらおうという機運が生じたわけです。特例子会社のトップの方たちは熱意を持った人が多く、先生たちとも波長が合い、交流の機会が増えました。東京都教育委員会においては、10年ほど前から業績のある企業の方々を就労支援アドバイザーに委嘱し、進路指導の先生方との合同会議を開いたり、一緒に職場開拓に出向いたりしています。村木 私が障害者雇用対策課長だった1997年ごろは特例子会社が70社ほどでしたが、いまは450社超ですね。当時、世話好きで熱気に満ちあふれる特例子会社のトップの方たちは「特例子会社同士はノウハウをすべて共有しよう。新しい特例子会社にはすべて教えよう」という雰囲気がありました。先日久しぶりに連絡会議に顔を出したのですが、相変わらず「ノウハウを分け合おう」という文化が残っていました。それは企業と学校の関係も同じで、みんなで取り組むという姿勢は、大きな財産です。 私自身、とても企業に感謝する機会がありました。知的障害者の雇用義務化のときに「障害者トライアル雇用(※2)」が始まったのですが、ハローワークの職員たちはどんな力があるかを知ってもらうための、勉強するきっかけになってきたのかなと。雇用率は目的化してはいけませんが、少し荷が重いことにも取り組むきっかけづくりという意味では大事な役割を果たしてきたと思っています。松矢 そうですね。その流れで1997年の法改正で知的障害者が雇用率の算定基礎に組み込まれ、彼らを中心にした特例子会社をつくる動きも活発になりました。このころから障害者の雇用に対する考え方が、障害特性よりも「この人ができる仕事を切り出そう」というふうに変わっていきましたね。村木 身体障害者だけだったときは、「ある従業員がやっていた仕事を、身体障害者でもできるか」という発想だったのが、「社内全体の仕事の棚卸をする」というやり方になり、知的障害者ができること・得意なことを業務として集めて部署や特例子会社をつくる。そのような動きが大企業が本気で取り組むきっかけにもなりました。 松矢 特例子会社については、最初はどの企業も試行錯誤でした。先進的な企業の有雇用率制度は「宿題」熱気に満ちあふれる特例子会社松まつ矢や 勝かつ宏ひろさん東京学芸大学名誉教授、目白大学客員研究員。NPO法人GreenWork21理事長、社会福祉法人 森の会理事長。日本知的障害福祉連盟理事・日本発達障害学会理事・中央省庁・東京都などの委員を歴任。2007年10月から全日本特別支援教育研究連盟理事長。※1 職業準備訓練:就職に向けて基本的労働習慣の習得などを図るための訓練。地域センターでは2005年以降「職業準備支援」と称して実施している※2 障害者トライアル雇用:ハローワークなどの紹介により、障害者を一定期間雇用することで適性や能力を見極め、継続雇用のきっかけとすることを目的とした制度 『働く広場』は、今号で通算500号となります。これを記念して、障害者の福祉から雇用まで幅広い施策にかかわった村木厚子さん(元厚生労働事務次官)と、30年以上にわたり編集委員をつとめた松矢勝宏さん(全日本特別支援教育研究連盟 理事長)のお二人に、『働く広場』から見る障害者雇用の変遷について語り合っていただきました。

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