働く広場2019年5月号
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6働く広場 2019.5は「3カ月で首を切っていい職場に障害者を紹介できない」と反対していました。そのときに日本経営者団体連盟(現在の日本経済団体連合会)や特例子会社を持つ企業などが「私たちが、トライアル雇用を行い、うまくいったら本雇用してくれる企業を探します」といってくださったのです。結局は9割ほどが本雇用になり、ハローワークも一気に本腰を入れました。 松矢 このころ職域開発援助事業(※3)から、ジョブコーチ(職場適応援助者)による支援事業(※4)、トライアル雇用などの制度化や障害者就業・生活支援センターの開設によって「就労と地域生活」の二つをしっかり押さえる流れができましたよね。特に知的障害者にとっては、生活の支援が大切です。各地で官庁、民間企業、学校のネットワークができ、進路から雇用後の育成までをつなげる連携ができました。村木 厚生労働省に再編されてから、私は今度は障害者の福祉担当(障害保健福祉部企画課長)になりましたが、あのころは全体的に「働くことが障害のある人にとって大切だ」という機運が強く、障害者福祉の仕組みの抜本改正のとき、柱となったのが「就労」と「地域生活」でした。松矢 地域生活といえば1989年に制度化された「グループホーム」(地域生活援助事業)も大きな変化をもたらしました。通勤寮はありましたが、もっと身近なグループホームから会社や作業所に通う形で地域生活と就労を重視するようになりましたね。村木 そうですね。こうした就労支援の施策を福祉側から考えていたころ、印象に残るということが可能になったのは大きいです。国際障害者年でも謳うたわれた本人参加と自己決定の理念を反映して「障害者自立支援法」(2005年成立)では、利用者本人が希望する進路や生き方を尊重した個別支援計画の作成が定められるなど、自由度が大きく広がりました。同時に、障害者を囲ってはいけませんので、社会福祉法人の役割も責任も大きくなりました。そして制度体系が整ってきたいまは、就労にいかに移行していくかということが大きな課題になっていると思います。村木 企業で働く人(49・6万人)も、就労系福祉サービスを利用する人(計34・2万人)も非常に増えています。就労の世界が大きく広がっていることがわかりますね。 松矢 精神障害者がようやく法定雇用率の算定基礎に入ったいま、細かい部分はまだまだですが日本も欧州並みに「すべての障害者」がリハビリテーションや雇用の対象になりました。一方、これだけ精神障害者への対応が遅れたのは、国内での差別がそれだけ強かったからでしょうね。村木 同感です。トライアル雇用などの政策にあわせて「次は精神障害者だ」と研究会を立ち上げたのですが、それはもう反対の声が大きかったですね。知的障害者までは喜んで応援していたのに、精神障害者になると腰が引けている感じがありました。それがいまでは一番の応援どころだと、支援者の気持ちも変わってきましたよね。松矢 精神障害者を中心とした地域生活支援センター(以下、「支援センター」)ができて、病院から出て地域生活ができるようになる議論がありました。一つ目は「いままでの福祉就労の制度は永遠の訓練だ」というものでした。そこから一般雇用につなげる道をつくるために「就労移行支援事業」が始まりました。 二つ目は「なぜ働いているのに労働者としての権利がないのか」という議論。例えば労災保険や最低賃金法が適用されないことです。そこで就労継続支援A型事業所という形で福祉の世界に労働法が適用される場をつくりました。 三つ目は、その理論だと就労継続支援B型事業所のような作業所的なところはつくれませんが、「では、つくらなかったらどうなるか」という議論。重度障害の方など労働法が適用される施設に行けない人は、生活介護という分類の施設に行くことになるが、そこで作業して工賃をもらってもよいのではないか。しかし、毎日通う場所に「働くところ」としての看板がないと、彼らの気持ちを削そいでしまうのではないかと。それで、あれだけ批判されたB型を残したのです。私もあのとき「働く場に通う」形を担保できる福祉の類型をつくったことは間違っていなかったと思います。松矢 一般就労に最も結びついているのは就労移行支援事業所ですが、A型・B型も含めた就労系障害福祉サービスから一般雇用に移行した障害者の数は、2003年を基準とすると、2017年はその11・5倍の1万4845人でした。2017年の特別支援学校からの就職者数は6411人なので、2倍以上だったことになります。つまり、障害者の離・転職ができる時代になったわけです。入社したけど合わなかった、ほかに行きたい会社が見つかれば転職でき就労と地域生活精神障害者の就労支援※3 職域開発援助事業:実際の職場を利用して職業準備性の向上を図るための事業。1992年から地域センターで実施され、2002年に「ジョブコーチ支援事業」に発展、改組された※4 ジョブコーチ支援事業:ジョブコーチが職場を訪問し、障害者および事業主に対して職場適応・定着を支援する事業

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