働く広場2019年6月号
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働く広場 2019.6『障がい者の就活ガイド』著者 紺野大輝 2015(平成27)年2月に、個人的におつき合いのある企業の社長さんから「就労移行支援事業所を始めたので、利用者にこれまでの経験を話してほしい」との依頼をいただきました。 それまで人権をテーマとした講演は200回以上行っていましたが、就職の話はしたことがありませんでした。「不採用の連続だった自分の経験が果たして役に立つのだろうか」。一抹の不安もありましたが、「やってみなければわからない」と引き受けることにしました。 このエッセイの第2回・第3回(※)で書いたような体験談を中心に、1時間ほど話しました。障害者採用と一般採用の違い、人事担当の視点から応募書類の書き方や面接のポイントなど、具体的なエピソードは利用者の方に好評でした。質問を受けつけると、就職活動の知識や経験がなく、「障害があるから就職はできない」と半なかば諦めている人もいました。そのような方には「できないことを気にする必要はない。できることや強みを磨けば働ける」と力強く訴えました。 はじめは不安を感じながら引き受けた講演でしたが、相手に響いていることを実感し、最後には自信をもって答えることができました。  講演終了後には個別相談を行いました。多くの方が参加していたため、1人10分と短い時間でしたが、一人ひとりがさまざまな考えを持ち、悩みを抱えていることを実感しました。ある方はこのようにいいました。 「私は障害年金をもらって実家で暮らしているので、お金には困っていませんが、働きたい。社会とかかわっていなければ、何のために生きているのかわからなくなるからです」 私はこの言葉に強い衝撃を受けました。私は一人暮らしをしていましたし、障害年金の受給もしていないため、「生活費を得なくてはならない」ということが就職の前提にありました。しかし、この講演の経験から、生計を立てること以外に、生きがいや社会とのかかわりを持つために働きたい人もいるということを知ったのです。 また、悩みも聞きました。なかでも「障害があることをオープンにするか」という相談は、多く受けました。特に、外から見えない障害はなかなか伝わらず、誤解されることも多いため、面接では障害のことは話さず、入社後困ったことが起きたら相談するという方もいました。 私も就職活動で苦労したので「とにかく内定がほしい」という気持ちは痛いほどわかります。しかし、18年間企業で勤務してわかったのは、「お互いに理解して働いた方が、よい雇用関係になる」ということです。 よって、このような質問では、「理解しようという姿勢のない会社で働くのは、果たして幸せなのだろうか」、「もし実際にトラブルなどが発生したら、一緒に働く従業員やお客さまに迷惑をかけることになる。一度失った信用を取り戻すには、多くの時間とエネルギーがかかる」という話をしています。 もちろん、私の考えがすべて正しいわけではありませんが、「内定がゴールではない。働いて充実した人生を送れるようになるのが真の成功」という想いで、一人ひとりの相談に乗りました。  その後、企業や官公庁からも障害者雇用研修の依頼が入るようになりました。企業の方も障害者とかかわったことがない人が多く、障害者雇用に不安を抱えていることを知りました。そこで、就労支援の現場で聞いた生の声を経営者・人事担当者にお伝えするように心がけています。当事者と企業の架け橋になるのが、私の役割だと感じています。 おかげさまで現在は全国各地から講演の依頼をいただき、この活動はライフワークとなっています。障害者雇用の支援を始めて4年目。障害者雇用がむずかしいと感じるのは、働く側・雇用する側の両方の知識不足が原因だと感じています。それぞれの立場を経験している私だからこそ、お互いの理解が進むよう、これからもメッセージを発信していきます。 (つづく)障害者の「働きたい」を企業とつなぐ紺野大輝(こんのたいき)1976(昭和51)年、札幌市生まれ。「脳性麻痺による脳原性運動機能障害(両上肢機能障害)2級」という障害を持って生まれる。2000(平成12)年法政大学卒業後、一般採用で都内老舗ホテルに入社、購買部で5年間勤務する。2006年、障害者採用で転職。2016年、『障がい者の就活ガイド』(左右社)を出版。2018年8月22日、朝日新聞「天声人語」で紹介される。公式ホームページ:http://konnotaiki.net/◎講演で自らの体験を伝える◎社会とかかわりたい◎ライフワーク活動*第 4 回※第2回(2019年4月号)、第3回(2019年5月号)は、当機構ホームページでもご覧になれます。就労移行支援事業所での講演の様子19

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