働く広場2019年7月号
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働く広場 2019.7『障がい者の就活ガイド』著者 紺野大輝 障害者雇用の啓発活動を始めるようになって、「障害者向けの就職活動本を出版したい」と思うようになりました。 それにはいくつか理由があります。一つめは、私自身が障害者として就職活動をした当時、情報が少なく苦労した経験があったからです。 二つめは、それから10年が過ぎ、情報化社会が進み、寝たきりの障害者でもさまざまな情報に触れられる現代でもなお、障害者が就職活動をするうえで必要な情報はかぎられているためです。就労支援にかかわり就職を希望する障害者の方々と接するなかで、痛感しました。 三つめは、障害者採用の仕事にたずさわり、応募書類の書き方、面接の機会に伝えるべきことなど、就職活動のコツや要点が見えてきて、それを伝えたいと強く思うようになったためです。 すでに講演などを通じて情報発信をはじめていましたが、もっといろいろな方にメッセージを伝えたいと思い、そのためには書籍にまとめることが有効であると感じました。ご縁に恵まれ2016(平成28)年12月に『障がい者の就活ガイド』を左右社より出版しました。  出版直後から大きな反響がありました。新聞や雑誌で紹介されたり、講演の依頼が増えたりしました。そして、予期せぬうれしいこともありました。 それは、高校や大学のキャリア授業への登とう壇だんです。最初はなぜ私なのかと思いましたが、「紺野さんが悩んだり苦しんだりしたこと、そしてそれを乗り越えた話は、これから社会に出る学生にきっと役に立つはずです」というのが依頼理由でした。 「できないことがあっても落ち込む必要はない。なんでもできるスーパーマンのような完璧な人はいないのだから」、「強みを活かしてどのような貢献ができるのか考えるのが大切」、「悩みや課題はなくならない。それから逃げるのではなく成長に結びつけるのが重要」。私が伝えているメッセージは、障害があってもなくても同じです。働くことにおいては一緒です。 また、講演のなかには障害者雇用の話を織り交ぜます。「企業には障害者を雇用する義務があります。みなさんも社会に出たら障害者と働く可能性があります。そのとき、どうしたらよいと思いますか」と問いかけます。そうすると、みんな真剣に考えます。 最初は「知らなかった」という驚きが中心ですが、そのうち「法律で決まっているから仕方なく雇うという企業はカッコ悪い」、「できないことがあっても『お互いさまだよね』といって支え合って働きたい」など、大人顔負けの意見が出てきます。 学生のころから障害者雇用について知っていれば、社会に出て一緒に働くようになっても抵抗はないはずです。少しでも身近に感じてもらえるよう、現在は積極的に学校にうかがっています。  私が新卒で働き始めた2000年ごろは、障害者に対する差別や偏見は当たり前のようにありました。その後、さまざまな法改正があり障害者の働く環境は格段に改善されました。 近年は、在宅勤務やテレワークなど場所を問わない働き方や、週1日勤務からの短時間雇用など、新たな取組みをする企業も増えてきました。テクノロジーの進化により、働き方はますます多様化していくでしょう。就労を希望する障害者が、自らの能力を活かして働ける社会になることを願っています。私もその支援を今後も継続していきます。 全5回にわたりお読みくださりありがとうございました。このような機会をいただけましたことに心より感謝いたします。『障がい者の就活ガイド』を出版して紺野大輝(こんのたいき)1976(昭和51)年、札幌市生まれ。「脳性麻痺による脳原性運動機能障害(両上肢機能障害)2級」という障害を持って生まれる。2000(平成12)年法政大学卒業後、一般採用で都内老舗ホテルに入社、購買部で5年間勤務する。2006年、障害者採用で転職。2016年、『障がい者の就活ガイド』(左右社)を出版。2018年8月22日、朝日新聞「天声人語」で紹介される。公式ホームページ:http://konnotaiki.net/◎『就活ガイド』出版◎予期せぬうれしいこと◎これからの働き方*最終回キャリア授業の様子19

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