働く広場2019年8月号
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働く広場 2019.8手洗いの時間を短くできないか指導してみたもののむずかしそうだとわかり、いまは本人だけ休憩時間を15分ずらすことで対処している。「本人に悪気はなくとも、周囲との予期せぬトラブルはたくさんあります。結果的に本人も周囲も納得できるような着地点を見い出すようにしています」伍嶋さんは、やみくもに試行錯誤をしているわけではない。もともと大学で心理学を専攻しており、福祉系の職場に進んだ同窓生も少なくない。「当時学んだ基礎的な知識の掘り起こしに加え、大学時代の友人たちにも相談し、学び直しています。最近は講演会への参加をきっかけに、大学の研究発表会にも足を運んで参考にしています」3カ月に1回ほど、地域の意見交換会にも参加している。障害者就業・生活支援センター「ビック・ハート柏」が主催で、障害者雇用を進める企業や就労移行支援事業所、特別支援学校の先生たち60人ほどが集まり、事例発表やグループワークなどを行っている。「顔の見える横のつながりができ、実習や職場見学などで連携しやすい環境になっています」と語る。それでも伍嶋さんは、年に何回か、中本会長のところに行って悩みを相談するそうだ。「どのような仕事であっても、悩みや疲労は少しずつ蓄積します。会長はとても理解のある人なので、すべて聞いてくれて『それはたいへんだったね』と慰労してくれる。ただ『その分、やりがいもあるでしょう』といわれ『はい、そうです』と返すのですが」と苦笑する。トラブルが頻繁にあっても、「やりがいがある」と断言できるのは、たくさんの成長があることと、メンバーたちが「ここで働くのが好き」といってくれるからだという。 メンバーたちにとっては、年1回の1泊社員旅行も大きな楽しみの一つだ。ここでも新しいチャレンジと成長がある。例えば、風船工場の見学に行くことになったとき、ある保護者から「風船を見ただけでパニックになる」という相談があった。伍嶋さんは前もって工場から風船を送ってもらい、一緒にふくらませて触れさせたりした。その結果、本人は工場でも同僚と一緒に風船でボール遊びを楽しむことができた。また、ボーリング大会のときには「騒音に敏感なので欠席します」と保護者にいわれたが、本人は行きたがっていたため、「自分で『行きたい』と話してごらん」とうながした。当日はみんなと楽しくプレーできたそうだ。「保護者のみなさんは、昔のままだと思いがちですが、メンバーたちは働きながら、どんどん成長していますからね」新たな職域拡大にも挑戦中だ。その一つが仕分け作業の第一段階である「バラシ作業」だ。返送されてきた使用済みモデム機器を箱から出し、リサイクルするもの、廃棄するものなど、それぞれに分けてコンベアーに載せていく重要な作業だ。メンバーのうち坂田さんら2人が研修を受けており、様子を見て本格的に担当してもらうつもりだという。「最近は職場全体が人手不足に向かっていることなどから、今後、一般の作業現場にも、障害のある従業員を配置していきたいと考えています」 柏事業所は年間を通して、県内外の数多くの特別支援学校や就労移行支援事業所などから実習生を受け入れている。期間は1週間から10日間。「来るもの拒まず大歓迎です。実習生が来てくれると現場がリフレッシュしますから。メンバーたちは教える経験ができ、緊張感を持って取り組むようになる。精神的な成長につながります」と伍嶋さんは話す。社員旅行も成長のチャンス実習生と親と先生バラシ作業では、カッターなどの刃物も使うため、注意力が求められる8

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