働く広場2019年8月号
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働く広場 2019.8員、合計10名に対してヒアリング調査を行いました。その結果、障害者就業・生活支援センターにおける支援の困難さの特徴として、「健康管理」や「生活面の課題への支援」について取り上げている回答が多く、地域センターからは、「職場の環境調整の限界」や「求人種類の選択に関して労働条件面で折り合いをつけていくことの困難さ」を取りあげている回答がありました。このヒアリングでは、それぞれの支援の困難さに対して、具体的な支援策についても聞き取っています。実践知(※2)ともいえる、それぞれの機関のヒアリング結果をあわせた支援例をいくつかご紹介します。・支援が成果につながりにくいときには、まず本人のことをきちんと理解しているか振り返る。そのためには、常に支援を組み直していくなど、PDCAをくり返すことが大事ととらえている。・障害者が自分の状態を客観視できるようコンディショングラフを活用して、本人、職場、医療機関と共有し、不安定な予兆を捉とらえて介入している。・障害者が「現在従事している仕事」のアウトプットに課題があっても、職場から本人にうまくフィードバックできないなど、コミュニケーション上の課題もある。まずは仕事の正確性やスピードを高めていく取組みからはじめる。その取組み内容は個別性が高い。・在職者の場合、会社との関係による課題の多さ「音声情報のみとなる電話は、ゆっくり、声のトーンを落として短い文節で話し、わかりやすく伝えることを心がける」などしている。・思っていることがいえない、話す内容が相談ごとに異なる、課題解決よりも相談自体が目的となっている者に対しては、具体的な提案をせず、他者の意見を聞いてみることをうながしつつ、自ら選択肢を増やして考えられるように気をつけている。・本人との関係性の影響が顕著なため支援が困難な場合、担当者の変更も検討する。 報告書では考察として、アンケート調査及びヒアリング調査の結果をふまえて、支援の困難さについて、①「障害などの理解に対する支援の困難さ」、②「重複障害や疾病などの多様性に対する支援の困難さ」及び③「利用者と支援者との関係性に由来する支援の困難さ」の3点に整理して、先行研究やほかの領域での知見により補強しています。本研究を第一歩として、地域の多様な関係機関が就労支援において感じている困難性と支援策に関する研究が、さらに進展することを期待しています。まず、多様な支援機関や職種がそれぞれの専門性をふまえて、現在、自らの機関がどのような役割を果たせるか、どのような支援をほかの関係機関に要請し連携していく必要があるのかを検討し、「どのような就労支援上の困難さを抱えているか」を議論してみること、一人ひとりが捉えている困難さを共有してみることをおすすめしたいと思います。が困難性に影響する。期限の問題などで時間的な猶予がない場合は、さらに困難さが高まる。・医療機関とのかかわりがある障害者の場合、受診同行が基本である。生活面に課題がある場合は相談窓口にできるだけ同行している。相談の主体がほかの機関となっても、つないで終了ではなく、その後も連絡をとることを心がけている。・短期で離職をくり返している場合には、一人の利用者に対して複数名の担当者が対応して多面的に状況を把握する。・就職の準備性に課題がある場合、福祉施設の利用の検討だけではなく、本人の希望などをふまえ、職業訓練の可能性も探っている。・経済面や自己理解など複数の課題のある利用者は、支援のコスト・手間はかかるが、一つひとつ解決していく過程が利用者と支援者の信頼関係の醸成につながる。小さなことでも「こうすればうまくいった」という経験を共有すると、別の課題に対しても支援を受けようというモチベーションにつながる。・支援において課題が多いことで、ケース会議の開催など、ほかの機関との連携支援のための関係者の調整などが煩はん雑ざつになり負担感が増えるが、そのことを困難さと捉えないようにする。・本人が攻撃的な態度の場合、本人と支援者の間での課題の共有の阻害要因になるため、かかわり方の工夫が必要になる。例えば、「ホワイトボードや紙に支援者が理解した内容について書きながら相談し、整理したものを渡す」、◇ 調査研究報告書No.144は、 http://www.nivr.jeed.or.jp/research/report/houkoku/houkoku144.htmlからダウンロードしていただけます。   お問合せ先:研究企画部企画調整室(TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.or.jp)(1)障害などの理解に関する支援について(2)多様な課題を有する者に対する支援について(3)利用者へのかかわり方について4 おわりに29

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