働く広場2019年8月号
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働く広場 2019.8に特例子会社があるならば、積極的に頼りにしたい。さて、せっかく採用をして、本人が順調に業務をこなしていたとしても、一年も経たずに調子を崩して離職してしまうこともある。離職の理由としては、環境には適応していても、業務内容が希望と合っていないという場合がある。採用の際に慎重に検討することももちろんだが、できれば見学だけではなく、実習を採用前に組み入れたい。仕事に慣れてから目標を見失い、次第にやる気が落ちて離職してしまうというケースもある。対策としては障害のある従業員のための評価テーブルをつくり、昇給の制度などを整えていくことが考えられる。また、契約の更新ごとに不安になって不調に陥り、出勤が不安定になってしまうというパターンもある。実績に応じて徐々に更新頻度を減らす、限定正社員制度を取り入れるなど、処遇を見直すことも検討していきたい。對馬陽一郎 (つしま よういちろう) 弘前大学人文学部卒業。IT系企業を経て2009(平成21)年5月、特定非営利活動法人さらプロジェクトに入職。発達障害のほか、精神・知的・身体障害など、さまざまな障害のある人に向けた職業訓練と就労支援を行っている就労移行支援事業所「さら就労塾@ぽれぽれ」で、働くうえで必要となるパソコン操作や事務業務を中心とした職業訓練にたずさわる職業指導員。著書に『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に働くための本』、『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が会社の人間関係で困らないための本』(翔泳社)がある。のシステムや環境を構築しておきたい。それは例えば、社内チャットや机を仕切るパーティション、業務手順の明文化だったりする。こうした環境をつくりやすい部署を選定し、システムをつくっていくのはたしかに手間はかかるが、できあがった職場はいまいる社員にとっても決してマイナスになるものではない。また、すでに障害のある人を雇用している場合には、採用した人物をしっかりと観察する必要がある。どのようなことが苦手で、どういう場合にギャップが生じやすいのか。例えば「言い訳が多い」といった性格の問題に見える部分も、いったん特徴のひとつとして並べて検討する。特徴がわかったら、今度はこれに対応できる環境を考える。環境を考えるためには、専門家の助力を仰ぐ必要もあるかもしれない。特性にもよるが、簡単な道具ひとつ、指示の工夫ひとつで解決に至る場合もある。障害者雇用を成功させている企業に共通していることは、障害者雇用を社内全体の取組みとして考えていることだ。これは、発達障害にかぎらない。例えば、車いすを利用する人を雇用する場合でも、通路を確保し床に物を置かないなどの配慮を周知させる必要がある。採用前から現場の人を巻き込んでいければ、こうした準備もむずかしくなくなる。例えば、必要に応じて教え方や手順を変え、仕事を切り出して整理する。これらを実行する場合に、現場の人の事前の理解がなくては、摩擦が生じてくる。新卒採用が社内全体の取組みであるのと同様に、障害者雇用も社内全体で考える必要がある。採用に際しては、地元の就労支援センターや地域障害者職業センターに相談してみてもよい。これらの機関に採用前から相談しておけば、障害についての知識も得ることができる。採用時に人を見るべきポイントも、障害という観点も含めて、示してもらえるだろう。支援機関としては、応募してきた個人を指して「この人はどうですか」と質問を受けても答えにくい。一方で、これから求人を行う段階で「どんな人がよいと思いますか」、「どんな仕事が合いますか」という質問であれば答えやすくなる。「こういう仕事ができる人を求めている」、「こういう性格の人を求めている」と情報を共有しておけば、支援機関側でも登録者から適した人を選びやすい。支援機関と直接話ができる関係性をつくっておくことで、得られるメリットは大きいはずだ。大きな企業グループであれば、グループ内に特例子会社を持つ場合もある。特例子会社には、障害者雇用のノウハウが豊富にある。自社で障害者雇用を考えていくとき、同じグループ私私のひひひとととこ採用にあたり知っておきたいこと3

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