働く広場2019年9月号
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この日は、ATUが所属する、全国重度障害者雇用事業所協会の西にし村むら和かず芳よしさんが中嶋さんの様子を見に来ていた。障害者雇用がうまく進んでいる会社の特徴として、横の関係、地域のつながりが円滑であることがあげられる。人、仕事、教育、制度などの情報を共有することで、課題を解決していく。就職が決まらなかった中嶋さんの場合も、地域ネットワークによってATUに出会い、採用につながった。視覚障害者の業務遂行に関しては、ATU内の経験も乏しいことから、今後は支援機関などと連携しながら、よりよい方法を探していくことになる。中嶋さんの課題は、体力づくり。視覚障害者は運動量が少ない傾向があるので、雇用を経験してきたなかで、実際に感じており、障害特性の面からも納得できる。 中なか嶋じま大そ空らさん(20歳)は、今年5月27日に入社したばかり。小学校3年生から18歳まで盲学校に在籍し、卒業後は北九州市にある国立県営の福岡障害者職業能力開発校流通ビジネス科1年コースで、ワード文書作成、エクセル、電話応対、テープ起こし、議事録作成などを学んできた。片道2時間以上をかけて通学した、努力の人だ。就職先が決まらなかった中嶋さんを紹介された岩﨑さんは、時間をかけて成長してもらおう、と採用を決めた。福岡障害者職業能力開発校まで出向き、中嶋さんが使用する機器を選定して導入した。長い時間をかけて通学した経験があるため、通勤にはなんの問題もない。総務に配属され、取材当日は先輩から教えてもらいながら社内データを把握するため、さまざまなファイルの中身を確認していた。「社内の雰囲気はとてもいいです。社会で求められる人材になりたいと思います」と語る中嶋さんは、20歳とは思えないほど、しっかりとした口ぶりで、取材者への対応も素晴らしい。岩﨑さんのもとで、着実に成長していく人材であると感じた。のある人にもわかりやすいようシンプルな作業に分解して、ほぼすべての警備業務に配置している。以前は、業界内に障害のある人がいなかったため、当初はお客さまも戸惑い、「健常者にお願いしたい」という要望もあったが、実際に警備をしている姿を見てもらい、まったく遜そん色しょくなく業務にあたれることを納得してもらってきた。障害のある人のなかには、一度記憶したことを忘れず、長期間同じ作業を続ける能力の高い人も少なくない。一般的には融通が利かないと評価が低くなるが、いいかえれば、融通が利かないということは、周囲に振り回されず、コンスタントに仕事ができるということだ。警備員としては大きな価値となり、特性が活かせる環境さえあれば力を発揮できる。障害のある人の多くは、「怠けたり、ずるいことをしない」という岩﨑さんの意見は、筆者も障害のある人の視覚障害のある新入社員働く広場 2019.9赤ちゃんを連れて出勤する従業員も視覚障害のある中嶋大空さん全国重度障害者雇用事業所協会の西村和芳さん(左)と話をする岩﨑さん(右)23

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