働く広場2019年9月号
27/36

うことを目ざしています。警備業界全体で障害者雇用率をもっともっと上げることが目標です」岩﨑さんの目標は社員とともに、確実に前進している。 ATUでは、職務の分解で仕事を吟味した警備業務、教育に時間をかけた充分な研修により、質の高いサービスを提供すれば、福祉的支援がなくても障害者の行う仕事が社会で充分に機能することが実証されている。いわゆる「障害は個人の属性の問題」ではなく「社会」の側にあり、社会が変化すれば障害が軽減していくことの証である。福岡県での保安要員の有効求人倍率が全国平均の5倍ということは、工事の多い東京都・大阪府などでの人手不足はもっと顕著であろう。障害のある人もしっかりと、業務を遂行できることを確認して採用すれば、そうした警備会社に仕事を依頼する会社も、工事を円滑に進められるという好循環になっていくと思われる。警備業にかぎらず、障害者向けに求人をしていない業種は、障害があると本当にできない仕事なのか。それとも、工夫次第でできる仕事なのか。世の中のすべての職場で、もう一度検証する価値があると実感する取材となった。を通じて社会に貢献する』とあり、その一文を目にして入社した社員もいます」と語っている。設立後、転職を理由とした離職がほぼなく、親睦会出席率80%という数字からも、社員の満足度が高く、業務に前向きに取り組んでいることがうかがえる。 岩﨑さんが進める障害者を含む就労弱者の雇用は、結果的にATUが優良企業となる一因であるが、この雇用モデルを自社に留めることなく、警備業界に広めたいと考えている。取材直前の6月8日に福岡県立福岡高等技術専門校で行われたアビリンピック(障害者技能競技大会)福岡大会で、全国で初の「交通誘導」と「雑踏警備」のデモンストレーションが行われた。岩﨑さんが主催者に働きかけ、実現したものだ。実技内容は岩﨑さんが作成し、事前に県立大宰府特別支援学校高等部の生徒にATU社員が実技指導を行い、当日は一緒に参加した。デモンストレーションは正式競技ではないが、障害者がまだ少数の職種であり、雇用の可能性が多いことを示す絶好の機会となった。「警備業で障害者雇用ができることを証明し、同業者に理解してもら状態記録を見せてもらった。数カ月にわたる勤務状況が記されている。これにより、この人の思考・行動パターンが理解できる。入社して間もないころ、この社員は勤務が安定しなかったが、その理由を明確に知ることで、対処方法を工夫した。これは応用行動分析という手法で、個人と環境の相互作用の視点から、人間の行動の予測と制御を行うものである。また、勤務が安定しないという困った行動への適切な対応方法を導き出すために、ABC分析(※3)という手法も用いている。ATUでは社長が率先して心理的アプローチを学んでいるが、これは対象を障害者にかぎったものではなく、管理職であればだれでも身につけたい知識ではないだろうか。 最近、中小企業経営者が顔を合わせれば、「人手不足」の話題になる。そのなかでも人材確保がむずかしいといわれる警備業であるが、ATUは順調に採用を続けている。岩﨑さんは、「良質な経営を続ければ、有料の媒体に求人広告を出さなくても、ハローワークの紹介や評判を聞いて人材が集まります。以前の当社のホームページには『会社の目的は社員の幸福障害者雇用から始まる企業力アップアビリンピックへの第一歩まとめ働く広場 2019.92019年度アビリンピック福岡大会で、デモンストレーション競技として「交通誘導」、「雑踏警備」が行われた(写真提供:ATUホールディングス株式会社)博多港湾ターミナルでの誘導作業をする中島正義さん(左)と、古川和博さん(右)※3 ABC分析:数ある指標のなかから重視するポイントを決め、データごとに優先度を決めて整理する方法。重点分析25

元のページ  ../index.html#27

このブックを見る