働く広場2019年9月号
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働く広場 2019.9 イ.疲労と睡眠の認知行動療法 脳損傷のある人の約8割に、疲労と睡眠、または疲労か睡眠のいずれかに課題があると指摘する研究者もいます。また、疲労が蓄積すると抑うつになりやすいとの指摘もあります。そこで、疲労や睡眠の改善を通じて気分や感情面の課題を改善する認知行動療法が行われています。 これらの情報収集結果をふまえ、認知行動療法の考え方を基にした全6回のグループワークを開発し、10人に試行しました(表)。また、期間中は、個別フォロー(宿題の提示、個別相談)をあわせて行いました。○支援事例 Aさんは20歳代の男性です。大学在学中、交通事故に遭い、高次脳機能障害が残りました。また、安全に受講できる環境を整えるために、事前にアセスメントを行います。感情コントロールの課題があまりに大きいケースでは、個別での実施も考慮します。 グループワークで留意した点は以下の通りです。・重要なポイントをくり返し伝える・補完手段の活用をうながす・おさらいの助けになる資料を渡す・視覚的な資料を用意する・資料は簡潔にする・発表時のセリフの例を示す・選択肢を示す また、個別のフォローで留意した点は以下の通りです。・記憶や理解度にあわせて講習の内容を振り返る・グループワークで学んだ内容と自分の体験を結びつけて理解し、対処方法を考える・考えた対処方法を実践する 今回の試行では、受講者の反応はおおむね良好で、一定の変化が認められましたが、プログラムで学んだことを実践し続けるための工夫や、受障や職場復帰に際しての心理的なサポートなど、いくつもの課題を残しています。また、対象者が10人と少なく、さらに支援実績の蓄積が必要です。 実践報告書№33「感情コントロールに課題を抱える高次脳機能障害者への支援~認知と行動に焦点をあてたグループワークの試行~」は、障害者職業総合センター研究部門のホームページ(※)からダウンロードしていただけます。 大学卒業後は、支援機関を利用しながら資格試験の勉強に取り組んでいましたが、夜更かしをするなど生活リズムは不安定で、約束した時間に支援機関に来られないこともありました。 Aさんは、医療機関で定期的に相談するなかで、自分の課題の一つとして感情コントロールの課題を認識するようになりました。しかし、イライラが高じて暴言をくり返すことがあるなど、対処行動は不十分でした。 第2回、第3回のグループワークでは、疲労や睡眠の対処を学び、可能なものから生活のなかに取り入れました。プログラム受講前と比べ、睡眠リズムが改善していきました。 第4回、第5回のグループワークでは、「他者からくり返し指摘を受けることが刺激となって、感情を左右されることが多い」ということに気づきました。新規の就職を目ざしているAさんは、職場選びにおいて「指示を受ける回数が少ない」、「自分で作業手順を確認できる手順書がある」職場を選びたい、と話すようになりました。 今でもイライラすることはありますが、感情を爆発させる前に「一度その場を離れる」、「一人になってクールダウンする」といった対処が取れることが増えていきました。 プログラム終了後も、「身近な人や支援者に相談しながら、ここで学んだ対処に取り組んでいきたい」と話しています。 感情コントロール支援を効果的に進めるため、グループワークと個別フォローを組み合わせて支援を行いました。 受講者の意欲的な参加姿勢を引き出すため、※ http://www.nivr.jeed.or.jp/center/report/practice33.html お問合せ先:障害者職業総合センター 職業センター (TEL:043-297-9043)JEED 報告書33検索●支援実施に係る留意事項●支援の試行概要●まとめ29回テーマ概要1グループワークの目的・高次脳機能障害目的の説明、目標の設定、高次脳機能障害について、感情コントロールの対処の必要性2疲労高次脳機能障害と疲労の関係、疲労の対処方法3睡眠高次脳機能障害と睡眠の関係、睡眠の対処方法4認知①感情のメカニズム、ものごとのとらえ方の傾向5認知②感情を左右しやすい刺激や状況6まとめ第1回~第5回の振返り、プログラム終了後の取組み表 各回のグループワークのテーマ

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