働く広場2019年9月号
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働く広場 2019.9  今回この原稿を書き進めるにあたり、自分自身の35年間の仕事を振り返る機会をいただいたと思います。もっともっと前から、いまのような就労を応援する制度・事業所・人材などが充実していたら、一人でも多くの「働きたい」という希望を持っていた方々が、自分らしく生活できたのではないかと思います。 この過去の経験を、これからの自分自身の取組みに活かし、一人でも多くの方の「働きたい」を応援し続けていけたらと思っています。土屋 徹 (つちや とおる) O ce夢風舎 フリーランス ナース&ソーシャルワーカー。 精神科病院で15年看護職として勤務。その後、国立精神・神経センター 精神保健研究所 社会復帰相談部にて心理社会的アプローチなどを学ぶ。心理教育プログラムの基礎モデルの開発、日本で初めてのACT・IPSチームの初代チームリーダーを務める。現在は、フリーランスとして精神科クリニック(リワーク、相談業務、デイケアなど)、大学や専門学校、更生保護関係、福祉施設、障害児施設、訪問看護への取組みなど、多方面で活動中。者側からすると、「対人的な技術」を身につけて就職してくれると仕事もうまくこなせるようになる、と考えているように思いました。私は20年以上前から、対人的な技能を身につけるソーシャルスキルズトレーニング(以下、「SST」)(※5)という取組みを行っています。SSTはもともと、精神障害のある人たちが地域で生活していくために必要な「人付き合いのコツ」を身につけるために、1988(昭和63)年にR・P・リバーマン教授によって日本に紹介されました。1994(平成6)年には、入院生活技能訓練療法として診療報酬に組み込まれ、精神保健の領域(精神科病院)を中心に取り組まれてきました。近年では、さまざまな対象者や機関で取り組まれており、就労支援では「SSTは必須である」といわれるほどです。  「働きたい」を応援するときは、「就職するまで」だけではなく、「就労中」、「体調を崩したとき」、「(休職から)復職するとき」、「辞めるとき」、「辞めてから」など、その状況に応じた取組みを行います。また、その状況において「起こるであろう対人的な場面」などを中心に、SSTを通して練習します。もちろん、ご本人だけではなく、ご家族を対象としたSSTで練習することもあります。あるとき、特例子会社に出向になった方が、初めて障害のある方と一緒に働くこととなり、障害のある方との接し方に悩み、自身がうつ病になってしまったというケースがありました。その方とは外来で何度かお会いして、SSTを用いて接し方のトレーニングを行いました。その方からは「私は障害のある方とうまく接することができないと思っていたけど、自分自身が接し方を身につけていなかったとわかりました。SSTを通じて、障害のある方たちとのやり取りに、少し自信が持てるようになりました」といっていただきました。そのころから、雇用者側を対象としたSSTにも取り組み始めました。例えば、障害のある人への指示が伝わりにくい場合、「なぜ伝わらないんだろう」、「どう対応したらいいんだろう」と悩むことがあるとの声を多く聞きます。その際は、「自分たちの伝え方や接し方を再検討していくきっかけ」ととらえ、企業内でSSTを行い、自分たちの障害のある方への接し方を練習する機会を持っていただければと思います。ぜひ、企業内での研修などにSSTを普及させてほしいと願っています。私私のひひひとととこ終わりにSSTはさまざまなステージを応援する※4 リカバリー:ここでは、「障害のある人が、それぞれ、自分が求める生き方を主体的に追及すること」という意味※5 ソーシャルスキルズトレーニング(SST):社会で人と人がかかわりあいながら生きていくために欠かせないスキルを身につける訓練3

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