働く広場2019年9月号
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働く広場 2019.9います」影響は、共有スペースの使い方にもおよぶ。例えば以前、事務所専用のトイレをめぐって「手洗い場の周りに水滴がちらばって嫌だ」、「ごみ箱への捨て方が汚い」、「臭いが気になる」など、さまざまな声がスタッフから噴出した。そこで福田さんは最低限のルールを守るよう全員に伝える一方、ごみ箱は中身が見えない蓋ふたつきに変え、臭いが気になる人には「過剰にならない程度」で消臭スプレーを持参して使用するよう、すすめるなどした。「希望をすべて聞いてしまうと、職場を自宅のように変えたがる人も出てきます。でも職場はあくまで共有スペース。スタッフ同士で話し合いながら、全員が妥協し合えるラインをつくってもらうようにしています」と福田さんはいう。 職場の「お姉さん」的な存在の福田さんは、かつて人事部で新卒採用も担当していた。スタッフの見守り方や指導法には、新人研修などで社会人としての姿勢や仕事との向き合い方を指南してきた経験も存分に活かされているようだ。「最初は『自分はここまでしかできない』と線引きしていたのが、徐々に視野を広げてポジティブにもなり、『自分で考えてみたのですが』と提案をしてくるようになる姿を見ると、うれしくなります」一方の緑川さんは、かつて出版社で5年近く編集業務を担当していた経歴もある。そのため「人に何かを伝えるときには、言葉の持つニュアンスをていねいに扱いたいという気持ちがあります」と明かす。例えば、ある作業の内容を見直してほしいとき、スタッフに「改善してください」というか「修正してください」というか。「よりよくしていく」というニュアンスが心に入りやすい人がいれば、「単にやり方を変える」と伝えるほうがわかりやすい人もいる。「この言葉一つが本人のモチベーションにも大きな影響を与えます。伝える力も大事ですね」と緑川さんは語る。こうしたコミュニケーションの積み重ねが、少しのことでは崩れない上司と部下の信頼関係にもつながっていくようだ。「私の大事な部下ですから、いかに成長して会社の戦力となってくれるかをいつも考えています」 得意な分野を重点的に任され、能力を伸ばすケースも増えてきた。あるスタッフは、入社当初からエクセルでのデータ入力が主な仕事だったが、半年後ぐらいから「どうしたらミスを減らせるかが自分の課題」と口にするようになった。「業務改善の意識が高い」と感じた緑川さんは、「その処理は自動化できるよ」と助言。すると本人は独学で自動化ツールを学び、いまでは業務支援グループにとどまらず他部門からのデータ作成なども引き受けるようになった。別の30代のスタッフは大学で工学系を専攻し、最初の就職先企業ではCADを使って設計していたが「ユーザーのことを考えていない。想像力が足りない」といわれ、試用期間後に退職となっていた。コスモネット入社後は店舗のバックヤード作業だけでは物足りず経理サポート業務も担当してもらったが、数字のミスを見つけるのは得意でも原因をイメージするのが苦手だった。そこで、パソコンスキルの学習意欲を活かし、社員用パソコンのキッティング(※)業務を試しにやってもらった。その結果、何台も同時並行で進めることができたため、いまでは情報システムグループで、キッティングを中心とした専門的な業務を担当している。こうしたスキルアップの指導の先には、キャリアアップがあると緑川さんは話す。「彼らに長く仕事を続けてもらうには処遇を上げていけるとよいのですが、それには実績が必要です。本人に意欲があれば、半年ごとの目標設定で順序立ててスキルを習得し、私たちはそれを活かせる業務を獲得してきます。それを繰り返しながら、チーム全体の生産性も上げていけるよう模索中です」「見守り」と「伝え方」得意な分野でスキルアップコミュニケーションの積み重ねが、上司と部下の信頼関係へとつながる終業時に記入する日誌には、体調、目標の達成度、連絡相談事項などを記入する※キッティング:組立てから配線、OSのセットアップなど、コンピューターや周辺機器等を、利用者がすぐに使える状態に配備する導入作業7

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