働く広場2019年10月号
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働く広場 2019.10歳)は、生まれつき聴覚障害がある。大学院での研究実績を活かし、ツムラでは生薬の品質管理のために使う標準物質(※2)の製造などにかかわっている。2年間の嘱託正社員を経て2014年に正社員となった。面接時には聴覚障害によって「何ができて、何ができないか」を伝えたという。「基本的な会話は問題ありませんが、私は補聴器をつけても100%聞こえるわけではありません。補聴器から得た音と、みなさんの口の動きによって言葉を推測しています。電話は、相手の口元が見えないので理解できません。大人数が集まる会議などでも、発言内容をすべて確認するのはむずかしいです」グループ長の五いがらし十嵐靖やすしさんも、こうした事情を念頭に置いて「ミーティングはなるべく少人数で行います。会議でもパワーポイントを活用し、重要なことや複雑な話はメールなどの文章でも伝えるようにしています」と話す。その横で小関さんは「最近は同僚が、私の障害を忘れてしまうこともあります」と苦笑する。グループで会話しているとき、つい小関さんに口元が見えない立ち位置になることがあるそうだ。会議も長時間になると、目と耳に集中しなければならない小関さんにとっては体力的な負担も大きい。小関さん自身も「私にとって重要でなければ、そのまま流すこともあります。スムーズなコミュニケーションを含めた『いいあんばい』を考えながら対応します」と明かす。小関さんはグループで一番の若手だが、同僚との研究成果を学会で発表したり、特許を取得したりするなど活躍しているそうだ。五十嵐さんは「今後は、ぜひドクター(博士課程)の取得も目ざしてほしい」と期待する。ちなみに、小関さんはアスリートでもある。高校生のころ始めた陸上のやり投げ競技を、ツムラ入社後に再開した。「健康のためにも体を鍛え直そうと始めました」というが、全国障害者スポーツ大会などで記録を伸ばし、2015年に「第8回アジア太平洋ろう者競技大会」で銀メダル、2017年にはデフリンピック(聴覚障害者の国際スポーツ大会)にも出場した。いまも退勤後にトレーニングする日々だ。 ツムラではこの10年、社内の障害者雇用とは別に、漢方に欠かせない生薬栽培において、障害者の一般就労を図るべく設立された農業生産法人「株式会社てみるファーム」(北海道)との連携も進めてきた。きっかけは、生薬栽培の主要地の一つである北海道に2009年「株式会社夕張ツムラ」を設立したとき、てみるファームから「生薬栽培に協力できないか」と打診があったことだ。薬用作物の国内栽培拡大を進めているツムラは、シイタケ栽培などを手がけてきたてみるファームの実績を評価し、委託栽培の契約を結んだ。いまは赤ジソと呼ばれる蘇そ葉ようの生産を委託している。「さまざまな障害特性のある20人ほどの方が、てみるファームで働いています。種まきから収穫まで1年ほどかかりますし、生薬の原料ですから厳しい栽培基準もあります。なかでも雑草取りがたいへんなのですが、集中力を活かして大きな戦力になっているようです。それぞれ担当があり、自分たちで工夫しながら作業を進めることに『やりがいを感じる』という声も聞きますね」と土屋さん。さらに茯ぶく苓りょう(※3)の室内栽培に向けた共同研究も行っている。今後の取組みについて土屋さんが話す。「障害者の法定雇用率というルールを守りながらも、一方ではそれに縛られず、こうした生薬栽培という分野などで障害者雇用に結びつく新たな可能性を広げていきたいと思っています。こうしたツムラの各事業が、国連の提唱するSDGs(持続可能な開発目標)(※4)の達成にも、幅広く貢献していけると考えています」「てみるファーム」との連携「第8回アジア太平洋ろう者競技大会」の「やり投げ」で銀メダルを獲得したときの小関さん(写真提供:小関雄太さん)障害者の雇用拡大を目ざす、「株式会社てみるファーム」と連携し、蘇葉を生産している(写真提供:株式会社ツムラ)研究所の壁面には、小関さんが学会発表で使用したポスターが貼られている※2 標準物質:成分の含有量が明確にされていて、容量分析における標準溶液の力価を決定する基準となる物質のこと※3 茯苓:サルノコシカケ科のマツホド菌の菌核を乾燥させ外皮を除いたもの※4 SDGs:Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略称9

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