働く広場2019年10月号
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働く広場 2019.10からないことも多いものです。業務上必要な配慮に関する改善の提案は働く視覚障害者本人が主体的に考え、積極的に申し出た方がよいでしょう。このような採用後の話合いが継続的に行われていれば、事業主の確認や視覚障害者の申出の頻度は、実際に配慮が行われた頻度と同じか、またはそれ以上に多かったはずではないでしょうか。しかし結果はそうではありませんでした。  配慮の件数は多いのに、その前段階の事業主の確認や視覚障害者の申出が少ないのはなぜでしょうか。冒頭に挙げたスクリーンリーダーの導入例でも、専門家ではない視覚障害者と事業主が話し合っても、解決できるものではないと思ってしまうのかもしれません。  しかし、たしかに事業主と視覚障害者は専門家ではないかもしれませんが、事業主は経営者として、視覚障害者はひとりの働き手として、通常業務を行うのと同様にそれぞれ主体的に情報収集したり、考えたり、話し合って協力を得たりをくり返し、次々と発生する課題を何とか乗り越えようとすることが必要ではないでしょうか。後述するモデル事例はそのことを指し示すものです。   民間企業に対しては、さまざまな課題の解決に向けて活用できる相談窓口、機器の無料貸出、助成金が設けられています。厚生労働省の合理的配慮指針では、障害者の意向確認がむずかしい場合には、就労支援機関の職員などに当該障害者を補佐することを求めても差し支えないとされています。実際の関係機関の活用状況はどのようになっているでしょうか。 て最も視覚障害の原因となりやすい3大眼疾患は、網膜色素変性症、糖尿病網膜症、緑内障です。いずれも関係者へのヒアリングや情報収集の結果では見え方や進行の仕方が多様で、本人にも説明がむずかしいようです。このような説明のむずかしさを克服し、視覚障害者の雇用を進めるため、これまでの調査研究でお会いした企業、視覚障害者、眼科医、関係機関、盲学校など関係者のみなさまからのご意見、ご協力を得て、150を超える事例のなかから、雇用を目ざす視覚障害者や、職場復帰を目ざす中途視覚障害者にとってモデルとなりそうな4事例をご推薦いただき、改めて取材のうえ、調査研究報告書№149「視覚障害者の雇用等の実状及びモデル事例の把握に関する調査研究」(※2)に掲載しました。そこに共通するテーマは、視覚障害者の主体的な問題解決とキャリア形成に向けた十分な話合いです。  また、視覚に障害があるため通勤や仕事に支障を来している人が受けたい配慮について、会社との話合いなどに活用できるリーフレット「目が見えなくなってきた従業員の雇用継続のために(企業の人事担当者、管理者の皆さまへ)」(※3)を作成しました。会社の上司、産業医、眼科医、視覚障害者の就労支援機関やハローワークなど多くの関係者にご活用いただきたいと思います。  さらに、就労支援機関や眼科医が、視覚障害者と企業へ配慮の提案を行うために作成する自己紹介資料の様式「ブレークスルーカード」を考案し、職業リハビリテーション機関向けの視覚障害者の職業評価のポイントとあわせて、いずれも前述の調査研究報告書に掲載しました。こちらもご活用ください。  全国のハローワーク544所のうち、所定の手続きを経て抽出された134所の視覚障害のある求職登録者1174人のうち、ハローワークが支援困難・課題と感じた118事例のなかでは、障害特性の把握の困難さ、専門機関が不在であること、公共交通機関の沿線上に求人がないこと、眼疾患の進行にともない就労意欲が低下することがあること、仕事に必要なスクリーンリーダーの導入を事業主が認めないこと、などが指摘されました。視覚障害者の雇用に関係機関が関わっていたケースは少数でした(図表2)。   冒頭でご紹介した稲垣さんは、同じ記事で次のようにも述べていらっしゃいます。「目の見えていた当時の私は、視覚障害を想像するときに、“目をつぶって”見えないことを想像していた」、「この﹃視覚障害﹄というものは、目が見えている人からすると、想像しにくく、正しく理解することがむずかしい障害のように思う」 労働力の中心となる20〜50代の人たちにとっ※2 調査研究報告書No.149は、http://www.nivr.jeed.or.jp/research/report/houkoku/houkoku149.html からダウンロードできます。※3 リーフレットは、http://www.nivr.jeed.or.jp/research/kyouzai/kyouzai62.html からダウンロードできます。 ◇ お問合せ先:研究企画部企画調整室(TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.or.jp) 視覚障害者の雇用を一層進めるために4事業主と視覚障害者は支援を受けているか 329障害福祉サービス機関 4.1% 障害者就業・生活支援センター 3.3% 盲学校・専攻科 2.5% 地域障害者職業センター 1.8% 地域独自の就労支援機関 1.1% 職業能力開発校(委託訓練含む) 1.0% 難病相談支援センター 0.1% 当事者団体、ボランティア団体 0.3% 病院・診療所 0.0% その他 0.3% 図表21,174人の視覚障害者(求職登録者)のうち関係機関と連携したケースの割合(複数回答)

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