働く広場2019年10月号
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働く広場 2019.10――「株式会社ミライロ」は、ユニバーサルデザインにかかわる企業として有名ですね。 ありがとうございます。大学時代に同級生の民たみ野の剛たけ郎ろうと設立しましたが、民野はアルバイトを続け、私もネットオークションで本を売ってやりくりするなど、最初の数年間は日々の食事にも困るほど苦労しました。最近は、大手IT企業や証券会社などからの転職希望者がくるまでに成長しました。「障害者のため」という人もいれば、「ビジネスモデルに興味を持った」という人もいます。私たちが「社会性と経済性の両輪あっての継続」を大切にしてきたことが、奏そう功こうしたのかなと思っています。――幼稚園児のころから車いすユーザーの垣内さんにとって、日本社会のバリアフリー化はどのように映っていますか。 私の場合は、両親の努力もあり小学校から公立の通常学級に通いましたが、「難病児が小学校卒業」と新聞記事になるほど注目されました。また当時は、車いすで街中に出ると突き刺さるような視線を浴びたのを覚えています。しかし、最近では振り返られることも少なくなりました。スポーツなど各界で活躍される人も増え、心のバリアフリーはずいぶん進んだように感じます。 ただ、私たちが安心して街中に出ていくには、まだまだ十分ではありません。外出の不安があると、旅行や外食などの消費意欲が低下し、就労意欲に結びつかず、就学意欲にもつながりません。交通機関や飲食店、宿泊・商業施設などのバリアフリーを進め、実生活の成功体験を積み重ねることで「もっと働いて、やりたいことがある」と思えるような社会にしていくべきです。そして性別や年齢、障害の有無にかかわらず自由に人生をデザインし歩んでいけるような社会にする。これは私の夢でもあります。――街中のバリアフリー情報を見える化するために開発したのが無料アプリ「Bビーマップmaps」ですね。 はい。街中のバリアフリー情報をだれでも投稿・発信できる地図アプリです。例えば、店の入口の階段は、1段なら多少高くても車いすで上がれる場合もありますが、2段3段になるとむずかしい。また、店内で使える電源コンセントは、電動車いすユーザーにとっても必要です。電子マネー決済を歓迎している視覚障害者も多い。こうした生の声を投稿・共有し、店側にも発信してもらいます。情報が集まった結果、車いすで入店できる店が関東圏内に8千店以上あるとわかりました。手軽に情報が得られることで、障害のある方が外出することへのハードルも、ぐんと下がります。 また、障害者手帳の不便性を解消するため「ミライロID」という無料アプリも開発しました。ハードは変えられなくても、ハートは変えられる株式会社ミライロ 代表取締役社長 垣内俊哉さんかきうち としや 1989(平成元)年、岐阜県生まれ。遺伝性の骨形成不全症により幼稚園児のころから車いすに乗る。2010年、立命館大学経営学部在籍中に「株式会社ミライロ」を設立し、ユニバーサルデザインのコンサルティング事業を展開。2015年に「ダイバーシティ経営企業100選」受賞、2018年にJapan Venture Awards「経済産業大臣賞」受賞。著書に『バリアバリュー 障害を価値に変える』(2016年、新潮社刊)。バリアフリーと就労意欲2

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