働く広場2019年10月号
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働く広場 2019.10障害者手帳のデータをスマートフォンに取り込めるので、手帳を持ち歩かずにすみます。必要なサポートなども登録できるので、公共機関や商業施設でスムーズにサポートを受けられます。――2013年から手がける「ユニバーサルマナー検定」も反響が大きいようですね。 検定のモットーは「ハード(施設)は変えられなくても、ハート(行動)は変えられる」です。障害者にかぎらず高齢者やベビーカー利用者、外国人、LGBTの方など、さまざまな立場の人の視点に立った「心づかい」を身につけてもらいます。当事者のプロ講師が講義を担当し、丸一日あれば3級・2級を取得できます。実施企業は600社以上、有資格者は7万人を超えました。ホテルや飲食店などサービス業で接客スキルを向上させたいという目的や、障害者雇用を進める現場の管理職や人事担当者に受けさせたいという企業が多いですね。中高・専門学校などの授業の一環として受講するケースもあり、若い彼らが社会に出たときが楽しみです。 また、バリアフリー化を目ざす企業には、障害のある登録モニター5千人へのアンケート調査などを活用し、当事者目線のコンサルティングをしています。例えば、あるホテルでは、もともと身体障害者向けの部屋をつくったのですが、そこらじゅうに手すりをつけて、まるで病室のようで、評判がよくありませんでした。一般客も泊まらないので稼働率が悪化。そこで相談を受けた私たちは、取り外し可能な手すりにするなど「だれでも泊まりやすい部屋」への改装を提案しました。一方、有名なラーメンチェーン店では、店員に簡単なサポート方法を学んでもらい、お客さんから高評価を得ることができました。これは「ハードは変えられなくてもハートは変えられる」、素晴らしい事例です。時間も予算もかぎられているなかで、取組みに優先順位をつけることも大事だと思います。――障害者雇用の現場へも、アドバイスできることがあれば教えてください。 業務の内容や方法よりもまず、人としての向き合い方を考えてほしいです。例えば、面接や職場で「大丈夫ですか」と聞かれたら、だれでもつい「大丈夫」と答えてしまうでしょう。「お手伝いできることはありますか」と聞かれたら「じゃあ」と具体的な要望を伝えられるはずです。 それから、障害者雇用は「どれだけ事業やビジネスに活かせたか」という結果がともなわなければ、続かないと思います。「障害があっても」できる仕事は離職にもつながりやすい。一般に仕事を続ける主な理由は「人間関係、やりがい、お金」といわれますが、障害者にとっては「やりがい」が一番大きいと思います。企業側は、障害者雇用率の達成のためだけではなく「あなたにこの仕事を任せたいから採用する」というスタンスを大事にしていくべきです。 弊社にいる全盲の社員は、入社時はテレフォンアポイントメントの営業をしていましたが、相手の話を聞くスキルがとても長たけていました。ちょうどいい間合いで穏やかな話し方、リズムのよい会話をするので、アポ率(※)が非常に高い。これは大きな戦力です。本人が発揮できる能力を自覚し、企業も価値を認めていけるような採用・育成が大切なのだと改めて感じます。 彼らの能力は一緒に働いて初めてわかる部分も多いので、企業にはぜひインターンシップをすすめたいです。特に、障害のある学生はアルバイトの機会もかぎられるので、インターンの門戸を開いてほしいと思います。こうした経験は、社会全体で障害のある社員の離職防止にもつながると考えています。――最後に、来年に迫った東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会アドバイザーとしての抱負を聞かせてください。 私はボランティア向けのマニュアル作成などに協力していますが、東京五輪は2025年の大阪万博への助走だととらえています。1970年の大阪万博のときは、駅構内に点字ブロックやエレベーターが設置されて全国に広がりました。今回も東京五輪で機運をあげ、大阪万博でバリアフリー化の大きな流れをつくりたいと思っています。ぜひ、ハードでもハートでも日本の「おもてなし」を実感してもらえるイベントになるといいですね。※アポ率:アポイントメント(面接などの約束)を取る率「ユニバーサルマナー検定」7万人全盲の社員が戦力に3

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