働く広場2019年10月号
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働く広場 2019.10 もともと障害者雇用率2・5%︹2010(平成22)年︺と、当時の法定雇用率1・8%を大きく上回っていたツムラだが、2012年には一気に3・93%まで伸ばした。「障害者雇用の推進に力を入れよう」とトップダウン式で取り組んだ結果、当時は身体に障害のある人が数多く採用された。各部署に幅広く配属された障害者の存在は、なによりもまず従業員の意識を変えることにつながったという。理事でありコーポレート・コミュニケーション室長を務める土つち屋や洋よう介すけさんが振り返る。「特にこの10年、職場に点在するかたちで障害者雇用を進めてきたことは大きな意味があったと思います。私も含め従業員たちは、いまでは街中で障害のある人を見かけても身構えることなく自然に接することができていると感じます」ただ雇用状況としては、採用後に短期間で退職・転職するケースも少なくなかった。退職理由を調べてみると「体調不良」(39%)と「転職」(25%)が多い。「身体に障害のある方は、通勤を含め働き続けるうちに、私たちが考えるよりも体力を消耗しやすく、多様なストレスにさらされます。周囲が気づかないうちに本人も無理をして、体調不良につながってしまったようです」と児平さんはいう。本人と配属部署とのマッチングに、小さなずれが生じていた現場もあった。土屋さん自身も、過去の苦い経験として次のようなエピソードを明かしてくれた。ある日、土屋さんの部署に初めて聴覚障害のある若い部下が配属された。日ごろのコミュニケーションは簡単な手話や筆談などで問題なかったが、本人には事務経験がほとんどなかった。そこで土屋さんが「これを読めばわかるよ」と本を渡したところ「無理です」と即答された。「幼少期から単語を中心に会話をしてきたので、長い会話や長文は理解できない」とのことだった。「その後は、パワーポイントなどを活用して説明し仕事を覚えてもらいましたが、本人も周囲も、負担が大きかったと思います。バリアフリーの環境に整えているとか、障害種別を理解しているだけでは不十分だと痛感しました」職場で働く障害者の実情がわかっていくなかで、ツムラはそれまでの雇用方針を見直した。本人と部署の体制・業務内容とのマッチングを見極める採用プロセスを重要視し、就業後のソフト面の支援などの改善にも努めた。 ハローワークで通年求人募集をしているツムラでは、常に社内の就業可能部署の把握を行っている。主な就業可能部署の条件は、①本人の小さな変化に気づけるような「ケアが可能か」、②心身のバランスを崩す理由になる「業務量の大きな変動がないか」、③職場の日ごろの「コミュニケーションが良好か」の三つだ。ハローワークを通じた最初の面接会では、一人ずつ面接しながら職務経歴や資格、希望する配慮や自己分析内容などについて確認する。一次面接では事前に渡した「ナビゲーションシート」と呼ぶ書類を提出してもらう。内容は作業面・対人面・思考や行動などについて、自身の「特徴」、「対処法」、「配慮を依頼したい事項」といったものだ。このシートを事前に提出してもらうことで、面接当日や就業後の配慮・配属先部署とのマッチングについてスムーズに検討できるという。また近年はパソコンスキルのチェック項目も増やした。確認表(ワード・エクセル・パワーポイント)の提出と、エクセル(10分)・ワード(15分)のスキルテストを実施している。最終面接では、人事部長と予定配属先の部門長がそれぞれ面談・面接を行う。最終的な採用判断ポイントは「その人の人生において、いま就職すべきなのか。当社がベストなのかどうか」だという。採用段階のていねいなマッチングによ採用の判断は「その人の人生」にとってベストかどうか一時は障害者雇用率が 3・93%にコーポレート・コミュニケーション室長の土屋洋介さん6

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