働く広場2019年11月号
11/36

働く広場 2019.11て、それが自分の財産になっていると思います。日ごろはチームで仕事を進めていますが、それぞれ強みや得意な分野があるので、自分の苦手な分野について気軽に相談できる環境です」担当している仕事は、シュレッダー作業や経理補助、タブレットパソコンの初期設定などだ。入社時は「自分は一度に大量の情報を伝えられると理解できないことがあるので、一つずつ簡潔に説明をしてほしいとお願いしました」と語る。職場内でも定期的に「自分トリセツ(取扱説明書)」を紹介する機会があり、同僚にも伝えているという。日々のリカバリータイムには、水に濡らして絞ったタオルを電子レンジで温めて目に当て、さらに目薬をさすリフレッシュ法を実践している。 臼うす井い志し津づさん(39歳)は、就労移行支援事業所を経て2017年に入社した。以前まで一般雇用で働いていたが「ずっと自分の障害(ADHD)に気づかず転職をくり返していました」と打ち明ける。うっかりミスが多かったり、内容が理解できていないのに反射的に「はい」といってしまうことがあったという。オーシャンでも最初は緊張によるミスをして落ち込んだが、すぐに周りから「これは経験、チャンスだよ」と何度もいってもらい肩の力が抜けた。チャンスノートにも助けられた。例えば、シュレッダー作業を同時進行でやっているうちに記録をとり忘れ「どの袋がどの部署のものか」わからなくなった。チャンスノートで「付箋を貼る」、「必ず1部署ずつ記録してから次に移る」といった改善案が出され、対処できるようになったそうだ。「経験を重ねながら、自分でも仕事に自信がついたのがわかります。私生活も前向きになりました。以前は休日の外出が億おっ劫くうだったのですが、いまは街中を歩きまわり、店にひとりで入れるようになりました」セルフケアも実践している。通常のリカバリータイムは1時間に10分だが、臼井さんは30分に5分という間隔にしてもらった。「セルフケア道具箱」のアイデアから、洗面所でひじから手先まで流水に当てることを実践してみたところリフレッシュできたという。休日も無意識の過活動を予防するため、スマートフォンのアラーム機能を活用した注意喚起を行っているそうだ。 「職場のみんなが、どんどん成長していく姿を見られるのが何よりうれしい」と話す前山さんは、週末もセミナーや講習に参加したり専門書を参考にして「彼らの力をもっと引き出すにはどうしたらいいか」を考える日々だ。オーシャンの今後の課題について聞くと、「一人ひとりのキャリアアップ」を挙げた。いまは契約社員(週30時間勤務)として雇用しているが、今年中に正社員へのステップとなる「限定正社員」の制度をつくりたいと考えている。限定正社員は週30時間のままで、残業なし、転勤なし、勤務時間の融通、賞与などの待遇を考えている。前山さんは「個別の条件を柔軟に組み合わせた雇用の仕組みは、障害者を含む多様な労働者が働きやすい職場をつくる働き方改革、ダイバーシティの推進にもつながると思っています」と先を見据える。キャリアアップを後押しするためにも、親会社からの業務委託にとどまらない新規事業も必要だという。いま、みんなで出し合っているアイデアの一つが「当事者目線でつくった精神障害者の雇用のための動画」の制作だ。本人たちが実際に働いてきた経験から、職場で実践できるさまざまなノウハウを紹介するという。オーシャンの掲げるミッションである「世の中の障害者雇用の促進に貢献すること」の実現に向けて、同社の挑戦は続く。自分たちの経験を動画に「私生活でも自信がついた」取材日、臼井志津さんはシュレッダー作業を担当していた。タブレットを使用して処理待ちの段ボールを管理する当事者目線の動画制作に向けての会議で、みんなで意見を出し合ったマインドマップ9

元のページ  ../index.html#11

このブックを見る