働く広場2019年11月号
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働く広場 2019.11 神奈川県をはじめ関東・東海地方で学習塾を展開する教育関連企業「株式会社湘南ゼミナール」が、特例子会社「株式会社湘南ゼミナールオーシャン」(以下、「オーシャン」)を設立したのは2012(平成24)年。その経緯について、オーシャンの拠点である宮崎台事業所の事業所長を務める前まえ山やま光みつ憲のりさんにうかがった。「従業員数の増加にあわせて個別に障害者雇用を進めていましたが、スピード感のある職場になじめず辞めるケースもありました。そこで思い切って別会社をつくることにしたのです」前山さんは湘南ゼミナールの設立初期から塾講師として入社し、取締役まで務めた経歴を持つ。家族の介護などもあり早期退職したが、その後も後輩社員たちの相談に乗るなかで特例子会社設立案が出た。前山さん自身「取締役時代に障害者雇用を優先的に進められなかったのが心残りだった」こともあり、オーシャンの事業所長として再入社することを希望したという。オーシャンでは、精神障害のある人を中心に採用が進められた。いまは従業員20人(統合失調症6人、発達障害4人、難治性てんかん1人、双極性障害1人、うつ病8人)と支援スタッフら4人の計24人がともに働いている。全従業員925人に占める障害者雇用率は2・27%(2019年6月現在)だ。 設立当初、障害のある従業員の業務はシュレッダー作業のみだったが、いまではデータ入力や文書の電子化、テスト資料の分類、簡易印刷・名刺作成、経理補助など多岐にわたる。ここまで拡大できたのは、現場で「個々の強みを伸ばすこと」に重点を置いてきたことも大きい。「ある人は業務内容が日々変わると力が発揮できませんでしたが、同じ業務内容なら驚くほどの正確性でこなせます。逆に、同じ作業を続けるのは苦手であっても、パソコン操作は集中でき、いまではExcel VBAでツール作成するスキルを習得している人もいます。彼らは自分の弱点を人一倍気にしていますから、『自身の強みや良さ』のほうを意識させて仕事につなげていくことが大事です」強みは何倍にも伸ばせるため、本人の課題を直そうと働きかけるよりも、効果が高い。さらに自信がついて苦手な部分も一緒にボトムアップすることもあるという。「本人の強みを少しでも活かせる機会をつくり、苦手部分は補完し合うことでチーム全体の生産性が上がり、戦力化につながります」と前山さんはいう。いまでは入社6年目のメンバー3人が、親会社に単独で出張して、経理や入力補助の仕事も請け負っている。オーシャンの仕事は、主に支援スタッフが親会社などに出向いてヒアリングをするなかで生まれている。部署の業務の課題や新規事業の計画などを聞いて、オーシャンが担当できそうな業務を提案する。最近のヒットは「動画マニュアル作成」だ。教室や各部署で働くパート従業員ら向けに、事務作業やパソコンの操作手順などを画像とナレーションで編集した。紙の説明よりもわかりやすいと好評で、半年間で20本ほど制作した。「もともとオーシャン内の業務について支援スタッフのOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)なしに理解できるよう、先輩従業員がマニュアルをつくっていたので、そのスキルを活かしました」と前山精神障害者に特化した特例子会社「自身の強み」を意識させる強みを活かし戦力アップすることで、チームの生産性が向上多種多様な現場の工夫により、不安軽減とモチベーションを維持セルフケアと職場内ピアサポートで、働き続けられる環境づくり123宮崎台事業所の事業所長を務める前山光憲さん1POINT5

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