働く広場2019年12月号
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働く広場 2019.12持つ職人だったが、大きなバイク事故に遭あい2カ月間入院。後遺症が残った。退院後は、名古屋市総合リハビリテーションセンターや職業能力開発促進センターで機能回復のための訓練などを行ったという。その後トライアル雇用を経て、進工舎に入社。給与などは後見人が管理している。「面倒見のよい田中社長のおかげで再就職できました」と笑顔を見せる成田さんは、職場ではいまも苦労の連続だと明かしてくれた。「とにかく数字が苦手で、職場では小数点以下のサイズで調整する必要があるので苦労しています。ネジの穴がいつの間にかずれていることもしょっちゅうなので、少しでも異変を感じたら、すぐにほかの従業員に確認してもらったり聞いたりしています」 自分の能力を存分に活かしている従業員もいる。2016年に入社した古ふる田た知とも嗣つぐさん(23歳)は製図やプログラミングが得意で、古田さんのほかには専務の翔さんしか扱えないという最新型のNC旋盤機を担当している。工業高校卒業後、通常の就職活動がうまくいかなかったが、名古屋市障害者雇用支援センターに1年間通い、進工舎での実習を経て採用されたそうだ。「製品ができる過程をみるのが楽しいです」と笑顔で答える古田さんは、田山さんとも連携をとることが多い。「漫才のような会話のやり取りをしながら、うまく作業を回してくれています」と田中さんは目を細める。 障害のある従業員たちとともに職場を支えるのは、ベテランの先輩たちだ。蟹かに江え正まさ良よしさんは会社の経営者だったが廃業し、12年前に進工舎に入社した。障害のある従業員とも、ざっくばらんに付き合っているという。「私のいうことを聞いてくれるときと、まったく聞かないときがあります。作業内容を臨機応変に変えてみたり、やる気を出してもらえるようにうまく激励しながらやっています」と話しつつ、「○○くん、この間、初めて数字を50まで数えていましたよ」などと成長ぶりを田中さんに報告するなど、孫のように気にかけている。田た島じま信のぶ夫おさんは、実習生が来たときに仕事を教える世話係も担当。指導するときに心がけていることや注意していることを聞いてみたが、「うーん、特に気にしていることはないかな」という。数字が覚えられないという成田さんの指導についても「そんなに問題ではないですね。たまに教えたあとに『あ、理解してないな』と感じたらもう一回教えるだけです。最近は少しずつ変わってきていますよ」と話してくれた。「障害のあるなしにかかわらず、いろいろな従業員がいますからね。障害のある人が一人もいなかった20年以上前といまを比べても、職場はそんなに変わりませんよ」そして最長老の85歳だという河かわ合い勝かつ之ゆきさんは、田中さんの祖父の代から働く、まさに熟練職人。「加工する部品の細かい調整も確認してくれる、従業員たちの師匠のような存在。河合さんしかできない技もあるので、いなくなったらどうしようかと思っています」と話す田中さんは、こう補足する。「みんなそれぞれの持ち味を発揮してくれますから、それをうまく組み合わせるのが私の仕事といったところです。小さなハプニングも含め、毎日とても楽しいですよ」そう話していると、事務所に退勤の挨拶にきた小林さんが「あの作業はどうします?」と心配そうにいい、「週明けにみんなで仕上げないと間に合わないね」自身の持ち味を活かすざっくばらんな先輩たちNC旋盤機で作業を進める古田知嗣さん。「これからオールマイティにできるようになりたい」と話すベテラン職人の河合勝之さん8

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