働く広場2019年12月号
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働く広場 2019.12と田中さんと確認し合っていた。「こんなふうに、みんなが作業全体の先々の心配をしてくれるので、これまで納期を遅らせたことはありません」と田中さんが笑顔で話す。従業員のなかには、翔さんの同級生で、他社からの採用を断って入社してくれたという柴しば田た直なお己きさんもいる。ホワイトボードに書かれている納期を常に確認してくれ、田中さんに「あれを先にしないと終わりませんよ」などと進言してくれるという。残念ながら取材日は翔さんも柴田さんも外出中だったが、若い彼らの奮闘ぶりが田中さんの話からもうかがえた。 田中さんは「改めて、障害のある人は職場や仕事とのマッチングがとても大事だと思っています」と語る。自身が所属する中小企業家同友会の障害者自立応援委員会でも、障害者雇用がスムーズに進むよう「障害者のインターンシップ」(以下、「実習」)に積極的に取り組んできた。実習のモットーを、①直接採用の手段としない、②実習生を(アルバイトではなく)研修生として位置づける、の二本柱とし、「社会に出る意味」、「働くことの意義」を確認できるような実習を目ざしている。具体的には自分の得意なことやできること、課題を見極められるような内容を中心に実施しているという。「このように実習に取り組む機会があっても、中小企業のなかには『そんな余裕がない』、『うちの業種にそぐわない』といって躊ちゅう躇ちょする経営者も少なくありません」と田中さんは明かす。そこで実際に働いている障害者や特別支援学校のことをもっと会員に知ってもらおうと、「バリアフリー交流会」を中小企業家同友会の支部ごとに毎年開催している。模擬店のほか障害者が指導にあたる仕事体験コーナーが目玉で、田中さんも障害のあるメンバーとバンドを組んでライブ演奏をするなど盛り上げているそうだ。また最近同社は、放課後デイサービスを手がける民間施設の生徒たちを受け入れ、「職場体験」も実施している。田中さんが、ある生徒のエピソードを紹介してくれた。「保護者から『働くのは困難』といわれていた自閉症の生徒は潔癖症で、旋盤機械でネジを1回触る度に洗面所へ手を洗いに行っていました。そこで軍手をはめてできる作業を任せてみたところ、1週間しっかり職場体験を続けられたのです。この経験により本人は大きな自信が持て、きっと将来の描き方も変わってくるだろうと思います。こんなふうに『自分に何ができるか』を探す場があることが大事なのだと実感します」田中さんは、就職する前の障害者にとって「働いてみる機会」がもっと増えてほしいと願っている。「ハンディのあるなしに関係なく、挑戦する機会を奪うことは、人生のチャンスを奪うことです。『働きたい』という意欲がある人を応援し、持てる力を発揮し活躍できる企業が少しずつでも増えていくよう、私たちも努力していくつもりです」実習生の受入れを広めたい田山さんたちの指導にあたってきた蟹江正良さんベテランの田島信夫さん。新しく入る人たちの、よき相談相手だ進工舎の大黒柱の一人として活躍する柴田直己さん(写真提供:有限会社進工舎)9

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