働く広場2019年12月号
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働く広場 2019.12どを商品開発し、佐世保市の水族館や動物園、美術館、観光案内所、駅前のショッピングビル内などに置いてもらっています。私たちの強みは「中ロット」と呼ばれる数百個レベルの生産で、地域レベルで販売するにはちょうどいい量です。納品する商品の種類は、多い月で2~3千点ほどになります。 また最近では、クリエイターのみなさんが自ら仕事を取ってくるケースも増えました。自分の名刺を手に地域の観光課などを回って営業する人もいます。彼らがもっと仕事をしやすいように、コワーキング(※2)スペースとして新たにつくったのが就労継続支援B型事業所の「MミナトマチINATOMACHI FファクトリーACTORY」です。応接室もあり、利用者と自治体の担当者が打合せをしている光景もよく見られます。――利用者のみなさんの収入も上がっているそうですね。 事業所によって作業が異なるため、工賃には幅もありますが、縫製部門で毎日来ている方の工賃は月4〜7万円、長崎県の福祉事業所の平均工賃を大きく上回っています。利用者は19歳から56歳までと幅広く、8割が精神障害のある方、2割が知的障害または身体障害のある方です。個別支援計画上の出席率は9割を超え、比較的安定した職場環境ではないかと考えています。安定して働ける場所であるために職員研修なども重ねていますが、やはりいちばん大事なのは、経済活動において自分の役割があることではないかと思っています。地域のなかで自分が何をやっているか、胸を張っていえるベースとして私たちの商品があり、「この事業所で働くことが誇りだ」といってくれる人もいます。 私は、福祉業界はいま、一番クリエイティブな発想で動ける場ではないかと考えています。そして「働き方の制限をなくしたい」という思いもあります。何を仕事にしてもいい。字がきれいなら、アーケード街にテーブルを出して「のし袋に名前を書く」といった代筆業務をしたら、月に数万円稼げるかもしれない。「ほかに何ができそう?」と彼らに投げかけ、自分たちの好きなことをどう収入につなげるか、雑談しながら話を進めると新しいアイデアも生まれます。実際に自分の得意分野を活かし、水彩画のハンカチ作家になったり、水みず引ひき(※3)デザイナーとして店舗を構えた人もいます。――今後の事業展開について、考えていることはありますか。 分野に関係なく、魅力的なよい福祉事業所をもっと増やしたいという思いがずっとあります。私たちの経験を活かして、事業所設立のお手伝いもしてきました。佐世保市内の事業所は10年前20カ所ほどだったのが90カ所ぐらいになりました。よりよい支援やサービスが提供できるよう、みんなで連携しながら切せっ磋さ琢たく磨まし、相乗効果も起きています。 今後は全国各地で、私たちのビジネスモデルを参考に、その土地ならではの価値を生み出していってほしいと思っています。昨年度から「一般財団法人たんぽぽの家」(奈良県奈良市)が主催する「IoTとFab(※4)と福祉」プロジェクトに参加し、遠隔型のワークショップを始めました。パソコンから送ってもらったイラストデータを布に印刷し、ポーチやハンカチなどの商品にして戻すというものです。県外の事業所に商品開発のアドバイスをしたり、一緒に素材づくりをしたりといった取組みも行っています。地域の産業や観光に必要とされる事業所を増やすために「まねのしやすい福祉のビジネスモデル」を普及させていきたいですね。――一般企業との連携も進みそうですね。 全国の企業のみなさんにぜひ知ってもらいたいのですが、各地の福祉事業所には、専門的な機材があったり、生産能力がとても高いところも多くあります。生産工場の拠点やメーカーそのものとして、福祉事業所と企業は連携できると思うのです。実際に私たちも「パラ×アクティビティ」というジャンルで、アウトドアブランドとして企業と取引きをさせてもらっています。 私たちは、企業と対等にお付き合いできる事業所のあり方を模索しています。これからも新しい福祉事業所のあり方を発信しながら、「ああいう形なら活躍のフィールドができるかも」などと参考にしてもらえるような、企画や事業を展開していくつもりです。※2 コワーキング:事務所スペース、会議室、打合せスペースなどを共有しながら、独立した仕事を行うワークススタイル※3 水引:祝儀や不祝儀の際に用いられる飾りで、贈答品や封筒につけられる帯ひも※4 Fab(ファブ):製造、組立てという意味の「fabrication」の略称働き方の制限をなくしたいまねのできる福祉のビジネスモデル3

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