働く広場2019年12月号
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働く広場 2019.12 それからも進工舎では少しずつ障害のある従業員を採用してきたが、現場では「試し行こう錯さく誤ごの連続でした」と田中さんは振り返る。2003年に入社した男性は、大学院で数学を専攻していたため、NC旋盤(数値制御しながら切せっ削さく加工をする工作機械)のプログラミングを一手に引き受けてくれた。職場でもなくてはならない存在で、本人も「頼ってもらってうれしいです」と話していたが、しばらくして体調を崩した。本人は自分の状態について「みなさんが1時間80%の力を出しているとき、私は加減ができず150%の力を出すので短時間で疲れ切ってしまう」と説明してくれた。いまは、朝10時半から正午までの1時間半の勤務をしている。それでも毎日は出勤できないが、本人の「働きたい」という意思を尊重し、見守っている。一方で、高校卒業後に入社したある男性は、仕事にも職場にもなじんでいたが、人混みが苦手なため電車通勤が困難となり、残念ながら1年後に退職した。また、数年前に入社した20代の男性は、気分障害により、「夜に眠れず明け方に薬を服用すると昼まで寝てしまう」ため、午後からの出勤に変えた。それでもほとんど出勤できない状況になっているが、「休みます」との電話連絡は毎日くる。田中さんは、就労移行支援事業所の担当者とも相談しつつ「本人が行こうと思えば行ける場が必要なのかなと思い、『いつでも来いよ』というスタンスでいます」と話す。田中さんが「反省すべき失敗がいちばん多かった」と明かすのが、2012年に入社した発達障害のある男性だった。明るく素直で記憶力もすばらしく、職場にもなじんでいた。ところが1年経ったころから体調を崩してしまう。あとになって、その理由が分かった。それは2年目を機に、ほかの従業員から「もう特別な待遇はなくても大丈夫だよな」と激励されたことだったという。それまでの勤務は、数時間働いたら少し休むといった形。また家族と同居する自宅では、朝に好きなテレビ番組が観られないため6時半に出社し、休憩室でテレビを観るのが習慣だったが、「せめて7時半にしたら」と先輩従業員から助言されていた。こうした小さな激励やアドバイスが、男性にとっては大きな精神的ダメージにつながったようだった。急に「職場でイヤーマフ(耳あて)をつけたい」、「昼の休憩時間にみんなと違う番組を観たいからテレビを増やしてほしい」といった希望を立て続けに出してきた。異変に気づいた田中さんが、対処しようとしているうちに勤務時間が半日になり、まもなく出勤が1日おきに減ってしまった。田中さんが、男性の通っていた就労移行支援事業所に相談したところ「県の職業訓練校で再訓練ができる」とすすめられた。3カ月後には「バッチリです」と担当者に太鼓判を押されて戻ってきたが、やはり職場でのトラウマが消えず「ここでは働けない」と、別の工場に転職した。ただ男性は、いまでも定期的に進工舎に遊びに来る。トラウマのきっかけだった従業員とも楽しそうに冗談をいい合ったりしているのが幸いだという。この件があってから田中さんは、「仕事内容にかぎらず、職場で何かいいたいことや変えたいことがあれば、どんな小さなことでも必ず社長を通す」ことを全従業員向けの社内ルールにした。 試行錯誤の末、うまくいったケースもある。2014年に就労移行支援事業所の紹介で入社した田た山やま幸こう平へいさん(27歳)試行錯誤を重ねた日々専務が思いついた工夫進工舎で加工される金属部品は千種類を超える(同社のカタログより)バリ取り(※1)作業が得意だという田山幸平さん※1 バリ取り:樹脂や金属を加工する際に生じた不要な突起を取り除くこと6

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