働く広場2019年12月号
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働く広場 2019.12は得意な作業を続けることに秀ひいでている。ただし「好きな作業をやり続けたい」ために、担当しているほかの作業が疎おろそかになることがある。また、感情のコントロールが苦手で、ほかの従業員とトラブルになることもあったそうだ。そして、後でわかったことだが、もともと田山さんは疲れやすく、特に夏場は体力の消耗が激しかったそうだ。だがそのことを口頭で説明できず、結果として作業をしなくなっていた。そのことに気づいた専務の田た中なか翔しょうさんが、最初は田山さんと話をしてみたが、本人はなかなか意思表示をしなかった。そこで「毎日5分、一緒に反省会をやろう」と提案した。田山さんには「今日はどんな仕事をしたか」、「体調はどうだったか」、「お客さまにはきちんと挨拶したか」といった5~6項目についてノートに記録してもらい、自宅に持ち帰って、家族からも一言書いてもらった。こうしたやり取りをくり返すうちに、反省会で「疲れました」としっかり言葉に出して伝えられるようになったという。田中さんは、翔さんがこうしたアイデアを出せるのは、知的障害のある長男の存在が大きいと感じている。「幼少期から一番近いところで長男と過ごしてきたので、行動の裏にある心情などを理解し、よい方向へのうながし方もわかるのだと思います」翔さんはほかにも、職場で人間関係がむずかしくなっていると思われる従業員がいると、こまめに一緒に食事をして話を聞き、人間関係を調整するなど、職場内の潤滑油の役割を果たしているそうだ。 小こ林ばやし義よし一かずさん(56歳)は、2008年に入社した職場の大黒柱の一人だ。以前は建築関係の仕事をしていたが、残業が続いて体調を崩したという。退職後に障害者職業センターに通った後、進工舎に入社し、NC旋盤やボール盤を扱う作業を担当している。25歳のときから薬を服用しており、副作用で体がふらつくことがあるそうだ。「最初は週5日のフルタイム勤務でしたが、徐々に体に無理がくるようになりました。そこで会社に相談して、いまは水曜日も休みをもらい、8時半から15時まで週4日勤務しています。そして納期の様子を見ながら、たまに30分ほど残業もしています。とにかく体調の維持を第一に、働き続けていきたいですね」と語る。小林さんは、2017年度には障害者雇用支援月間の優秀勤労障害者として表彰された。精神障害について少しでも理解が広がり、企業の障害者雇用が進むように、田中さんと一緒に研修や講演会で経験などを話している。小林さんをはじめ、従業員の就業時間は1日1時間半からフルタイムまで多様だ。フルタイム勤務ができない従業員は時間給となるが、金額は仕事内容や勤続年数によって異なる。就業時間と勤続年数によって有給休暇の日数を定めた新しい労働規則もつくった。田中さんがいう。「職場内の不公平感が出ないようにするとともに、週1日勤務などどんな働き方でも有給休暇があるという提示です」 2015年に入社した成なり田た勝かつ利としさん(55歳)には、高次脳機能障害がある。以前は塗装関係の仕事で、いくつも資格を高次脳機能障害の男性も短い勤務時間で長く働く田中社長の次男で専務の田中翔さん(写真提供:有限会社進工舎)ボール盤での作業をする成田勝利さん。部品5~6個ごとにノギス(※2)で測って確認するフライス盤やボール盤の操作を担当する小林義一さん※2 ノギス:長さを100分の5㎜単位まで精密に測定する測定器7

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