働く広場2020年1月号
5/36

くなりました」という結果にしてほしいと、設立にかかわる社員たちにお願いしました。――「経営理念」の共有も大きな柱だったそうですね。渡邊 親会社が全面的にバックアップするために示した大きな方向性が、「王将フードサービス」の経営理念でした。ハートフルはあくまで「王将フードサービス」の一員であり、障害の有無に関係なく同じ価値観を持って働くことを大事にしてほしかったのです。経営理念はわかりやすい文章ですから、行動指針である「王将10訓」も含めてハートフルの従業員全員に覚えてもらいました。現場では指導員たちが「小さいころから食べてきた餃子を、あなたがつくっているんだよ」ということを何度も伝えて意識してもらったようです。採用のポイントも、会社の理念やルールをしっかり守れる人かを重視しました。一方で、生産性については最初から結果を求めず、着実にステップアップをしていけばよいという思いでした。 ――ハートフルの業務を、当初から事業の核である餃子製造にしたのも大きな決断でしたね。渡邊 彼らには餃子をつくる工程で大事なキャベツの加工(芯取り、切断、検品など)を任――ハートフル設立にあたり、社長として示した方針などはありましたか。渡邊 単に雇用率をクリアするための数字合わせをするのでは意味がないと思っていました。人数で計算するような感覚も好きではありません。採用するなら、その人の人生にも責任を持たなければいけない。一方、結果として彼らのために会社が犠牲になってはいけないし、施しを与えるような姿勢はもっと失礼です。慈善事業を目的にするのではなく、将来的には必ず戦力になってもらう。きちんと仕事をして成果を出し、彼ら自身が達成感とともに堂々と胸を張って給料を受け取ってほしいと考えていました。 私は社内に「王将大学」(※1)や「王将調理道場」(※2)をつくり社員教育にかかわってきましたが、ずっと感じていたのは「みんな成長したいのだ」ということでした。だからこそ彼らは歯をくいしばって仕事を覚えてきたのだと思います。そんな過程を見てきた私は、障害のある人たちが、さまざまな理由で活躍する場が少ないのなら、ハートフルがその場を提供すればよいと考えました。そして、長く働き続けられる環境で徐々に生産性を上げてもらい、将来的に「みなさんの貢献で会社がよ様に「おいしい」と褒めてもらえる餃子をつくること〞を経営理念としてわかりやすく示しました。 こうしたなかで障害のある方たちにも店舗や本部内で働いてもらっていましたが、あるとき障害者雇用の法定雇用率を達成できていない問題について人事部から報告を受け、特例子会社の設立を提案されました。当時は私自身も法定雇用率について詳しく理解していなかったので、どれぐらいの規模で何人雇用するべきか、外部のコンサルティング会社の助言などをもらいながら検討を始めました。――ご自身もかつて障害のある従業員と働いた経験があったそうですね。渡邊 もう30年以上も前ですが、店長を務めていた東京都内の店に自閉症の従業員がいました。彼は特別支援学校から本社人事部を介して入社してきました。障害者手帳を持っていたかどうかはわかりません。当時は会社側も障害者雇用としてあまり意識していなかったと思います。彼は人前で話すのが苦手で周囲とのコミュニケーションも少しむずかしかったのですが、「朝〇時に来て、これとこれをやっておくように」と伝えると、きっちりこなしてくれました。そして一度も遅刻しませんでした。そのころから私は、「障害者と健常者ってどこで線を引くのかな」と思っていました。彼はいまも元気に働いてくれています。働く広場 2020.1※1 王将大学:店舗のマネジメント力を向上させる社内教育機関※2 王将調理道場:調理技術や「王将の技」などを学ぶ社内教育機関慈善事業を目的にせず、必ず成果を出す大きな決断を担保するための緻密な準備3

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る