働く広場2020年1月号
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せています。最近はニンニクの加工も加わりました。「餃子の王将で働いている」という実感が持てる現場です。 その一方で、製造現場における一番の不安要素は、働いている人たちと製品にかかわる事故です。これは社会に向けた大きな責任ですから、念入りに具体的な予防対策を詰めていきました。 経営者は、腹をくくって決断したら方向性を示し、会社を運営していくための仕組みづくりまでは責任を持って、一緒に考えていくべきだと考えています。そして大きな決断を成功に導くための担保が、緻ち密みつな準備です。理念や精神的な支柱と相まって、計画的に進めていきました。この二つの両輪がうまくかみ合ったのだと改めて実感しています。 現場では初めて採用した従業員6人をマンツーマンで指導しながら、具体的にどのポジションでどの作業をするかを考えていきました。どの人にどんな作業上のリスクがあるかは、現場にいる人でないとわかりません。一つひとつのリスクを「こういうやり方・手順なら ――ハートフルでは労災無事故900日を超えているそうですね。渡邊 徹底した予防と細やかな指導を続けた結果、ハートフルでは、労災無事故900日超を更新中です。これは本当に素晴らしい記録です。しかも不安が払しょくされたばかりか、餃子の味がおいしくなったんですよ。「餃子の具にキャベツの芯が混じっている」というお客さまからのクレームが激減しました。それまでの担当者もしっかりやっていたとは思いますが、同じ作業をくり返していると、たまにぶれるんですね。でもハートフルの彼らは、ずっとぶれずに芯を取り除いてくれているのです。 労災無事故900日を祝って焼肉パーティーを開催したとき、従業員のみんなが私にネクタイを贈ってくれました。本当にうれしかった。給料で「親に財布を買ってあげた」、「家族で旅行に行った」という話も聞かせてくれて、頼もしく感じました。最近は「ほかの作業もやらせてください」、「リーダーになりたいです」と手を挙げる従業員もいます。実際に彼らのうち1人は、2019年6月に「チームリーダー」という役職に就きました。従業員たちの目標にもなるでしょう。「こうなりたい」と思えることが大事です。問題ない」というふうに解決していきました。最初はルールを守り、安心安全を第一にしたスロースタートでした。 以前は障害のない方々が作業に入っていた現場であり、「暗黙の了解」も随所にありました。それらをなくすべく「だれでもわかる」手順書や掲示物を作成し直しました。また経営理念を基に、ルールを明確にした「ハウスルール」(※3)を作成しました。あるべき姿、目ざすべき形を明らかにすることで教え方が統一され、指導者側も混乱せずに進めていけたと思います。 また、彼らには「時間はかかるけれども、覚えたことはきっちりやる」という素晴らしい個性がありましたね。指導員が一人ひとりのよいところを顕在化させるために、時間をかけてアプローチしていったと思います。毎日少しずつ成長し、その実感を持つことでモチベーションが上がり、気がつけば目標を達成していたのです。スモールサクセスを積み重ねること、「やればできる」という経験がとても大事なのだと思います。 もちろん現場の試行錯誤も少なくなかったようでした。ストレス対処や表現が苦手な人もいますから、面談を重ねてその気持ちを「できる」へとつなげるサポートをしました。容易ではありませんが、それは指導員たちのやりがいにもなったようです。働く広場 2020.1工場でのキャベツの加工作業(写真提供:王将ハートフル)労災無事故900日超、クレームも激減※3 ハウスルール:特定の組織、団体などでのみ適用されるルールのこと4

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