働く広場2020年3月号
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働く広場 2020.3この日、生地づくりを担当した(左から)我わが妻つま文ふみ明あきさん(29歳)、樋ひ口ぐち由よし昌まささん(26歳)、桐きり澤さわ直なお寛ひろさん(46歳)NPO法人から・ころセンター代表の伊藤正俊さんせんべいづくりは、材料の正確な計量から始まる生地を裏ごしし、一晩寝かせることでなめらかな生地となる門外不出とされた謙信せんべいのレシピを「マルサ製菓」から引き継いだ計量した小麦粉、玉子、砂糖を混ぜ合わせる米沢藩の祖となる戦国武将上うえ杉すぎ謙けん信しんに由来し、山形県米沢市の銘菓として60年以上親しまれてきた「謙信せんべい」。製造元の「マルサ製菓」が後継者不在で解散することとなり、地域伝統の味は途絶えるかと思われていた。この伝統の味を引き継いだのは、「就労継続支援B型事業所ワークから・ころ」のせんべい製造を担当する「アクティブから・ころ」のメンバーだ。同事業所を運営する「NPO法人から・ころセンター」代表で、長年に渡り不登校・ひきこもりの青少年を支援してきた伊い藤とう正まさ俊としさんは、「彼らは、真面目でていねいにコツコツ働くことが得意です。せんべい職人に向いています」と語る。いまでこそ、生地づくり、焼き、包装、出荷など、すべての工程をこなす事業所のメンバーだが、2017(平成29)年1月に、職人さんの指導を受けながら、マルサ製菓の道具やレシピを引き継いだ直後は、思い通りに焼くことはほとんどできなかったという。謙信せんべいは気温や湿度の違いによって焼き上がりが異なるため、商品として出荷できるせんべいを安定して製造することがむずかしい。そのため、約5カ月間にもおよぶ試行錯誤の末、ようやく販売開始へとこぎつけることができた。その後も研鑽を積み、指導していただいていた職人さんが非常勤となったいまは、事業所のメンバーだけで製造している。2018年5月には「道の駅米沢」への出荷を始め、現在では地元のスーパー4店舗にも置いてもらえるようになった。今後の課題は、生産量とともに販路を拡大することだ。この日、焼きの工程を担当していた西にし澤ざわ博ひろ之ゆきさん(36歳)は、「生焼けや欠けが出ないようにつくるのがむずかしいです」と、一枚一枚ていねいに焼き具合を確認していた。焼き上げられたせんべいを試食してみると、懐かしい味が口いっぱいに広がった。ごまやピーナッツなどの定番商品以外にも、くるみ、チョコ味など、彼らの若い感性で新しい味の開発も進めているという。地元で愛されてきた銘菓の新たな伝統を彼らが築いてゆく。16

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