働く広場2020年3月号
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座公談開会「働く広場」松爲 東京通信大学教授の松爲です。私は、長い間、障害者の雇用に関する研究にたずさわっています。近年は、厚生労働省の労働政策審議会で、精神障害者に関する雇用率設定の法改正に直接かかわっています。 2018(平成30)年4月から、民間企業の障害者の法定雇用率が2・2%に引き上げられたのと同時に、新たに精神障害者が障害者雇用義務の対象に加えられました。これには大きな議論がありまして、そのなかで私がもっとも悩んだのは、精神障害のある方の「職場定着」の問題でした。障害のある方たちの定着は、ただでさえとてもむずかしい現状がありますが、特に精そこで考えた反省点は、「配慮ばかりして、画一的に切り出した業務をお願いしてきたけれども、もっとその人の特徴に合った、持ち味を活かした業務をお願いしていれば、長く続けられたのではないか」ということです。業務の切り出しは重要ですが、それでは本人のモチベーションにつながらないんですね。そこで、「小規模な会社で少人数の雇用だからこそ、大会社にはない、いろいろなことを一貫してできるようなキャリア育成(=定着)の可能性を探っていこう」と方針を変更しました。 ここで、当社の経験に基づき、もう少し具体的に、何が職場定着を阻んでいるのかをふり返ってみたいと思います。職場定着を阻む要因には、「企業の問題」、「当事者の問題」、「支援先の問題」の三つの要因があると考えられます。 「企業の問題」に関しては、障害のある方を特別扱いしすぎたような気がします。配慮することに気をとられ、本当にその人のことをよく見ていたのかという疑問が残ります。 「当事者の問題」は、当事者自身が、きちんと病状の把握をして自分をコントロールしたり、働く意思を確立することができているの神障害のある方たちは、症状が不安定なため、安定した定着につながらないことが多いのが課題です。 本日、パネリストのみなさんには、初期の「職場適応」から長期的な「職場定着」に至るまで、企業側がどのようにサポートしていくべきなのかを、お話しいただきたいと思います。 松爲 始めに、「株式会社オレンジページ」総務人事部の増見紳一さん、当事者のKさんにお話しいただきたいと思います。増見 「株式会社オレンジページ」で障害者雇用を担当している増見と申します。当社は、料理や生活情報などの雑誌、書籍を出版している出版社です。社員数は150人と少ないので、小さな会社の事例だと認識していただければと思います。 当社では、これまでにも何人か、知的障害者・精神障害者の雇用を試みてきましたが、入社しては辞めるという状態がくり返されています。精神障害者の長期的な職場定着に向けて信頼感や安心感が安定した定着につながった松爲信雄さん働く広場 2020.32019(令和元)年12月5日(木)に、「有楽町朝日スクエア」で開催された『働く広場』公開座談会の採録をお届けします。2019年度内閣府主催 障害者週間連続セミナー20

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