働く広場2020年3月号
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働く広場 2020.3活用が活発化しており、プラットフォーマー(※)と呼ばれる少数の企業が、個人情報を含むデータを大量に収集・集積していることに批判と警戒が強まっています。福祉・介護・医療に関するデータにも注目と関心が集まっていますが、取扱いと利用に十分な配慮が必要であることは、いうまでもありません。次の時代の福祉・介護は、テクノロジーの進歩に支えられ、新しい姿へと変貌していくことになります。道具や手段としての活用にとどまらず、福祉・介護のあり方そのものにかかわる可能性が大きいだけに、福祉・介護の新しい「あたりまえ」をどのようにつくりあげていくのか、当事者・支援者をはじめとする関係者の積極的な取組みが求められています。生田正幸(いくた まさゆき) 1953(昭和28)年、滋賀県大津市生まれ。龍谷大学教授、立命館大学教授を経て、現在、関西学院大学人間福祉学部および大学院人間福祉研究科教授。専門は、福祉情報論、高齢者福祉論、福祉政策論。日本福祉介護情報学会代表理事、独立行政法人福祉医療機構「WAM NET事業推進専門委員会」委員、社団法人国民健康保険中央会「障害者総合支援法等審査事務研究会」座長。 著書(共著含む)として、『社会起業を学ぶ -社会を変革するしごと-』(関西学院大学出版会 2018年)、『福祉・介護の情報学 -生活支援のための問題解決アプローチ-』(オーム社 2009年)、『人間らしく生きる福祉学』(ミネルヴァ書房 2005年)など。られます。これら以外にも、夫婦や親子、学校や職場の人間関係、恋愛や結婚、就職や働き方など、社会と暮らしのさまざまな面で「あたりまえ」が変わりつつあります。 困難が予想される今後を切り開いていくうえで、大きな期待を集めているのがテクノロジーの急速な進歩です。特に、近年におけるICT(情報通信技術)や情報・データ活用の進化には目を見張るものがあります。私が専門としている福祉・介護分野においても、入所施設や在宅で生活している利用者を支援するためのサービスや事務処理などの業務を効率化し高度化するため、各種の情報システムや情報機器が活用され、人手不足への対処や利用者の生活の質の向上に大きな期待を集めています。また、ICT機器を活用した見守りや、地域社会における職種・事業所の枠を超えた業務の連携や情報共有を支えるネットワークシステム、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、ロボットといった先端テクノロジーの活用により、次の時代のサービス・支援のあり方を積極的に模索する取組みも増えてきました。最近では、福祉・介護問題の当事者や家族、支援者などの情報発信や連携、社会参画に、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などのインターネットサービスが活発に利用され、2022(令和4)年に中国・杭こう州しゅうで開催されるアジア競技大会の正式競技として採用される見込みとなった「eスポーツ(コンピュータ・ゲーム)」への障害者の関心の高まりなども注目されています。そこで、今後の大きな課題とされているのが、テクノロジーを活用し収集したデータに基づく、より効果的で効率的な福祉・介護サービスの実現です。少子高齢化がさらに進行していくなかで、人手不足はもちろんのこと、福祉・介護サービスを支える各種資源の不足が進むことは避けられません。そのため、かぎられた資源を有効に活用して、サービス提供を維持し、質の向上を図ることが求められており、利用者の状態を客観的なデータで把握して、相ふさわ応しいサービスを適切に提供していく取組みが進められようとしています。時代が求める福祉・介護の新しい「あたりまえ」に向けた動きといえるでしょう。また、懸念される点もあります。データや情報をどのように活用していくのかという問題です。ビッグデータに代表される各種データのテクノロジーがになう期待と懸念※ プラットフォーマー: 第三者がビジネスを行う基盤(プラットフォーム)として利用される製品やサービス、システムなどを提供、運営する事業者3

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