働く広場2020年4月号
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働く広場 2020.4発達障害を活かすということ ―人と違う感性を強みに― 25年前からワークライフバランス(WLB:仕事と生活の調和)に着目した、ダイバーシティ、WLB分野の第一人者。これまでに海外10数カ国を含む、国内のダイバーシティ・WLB先進企業1050社、海外の150社を延べ4000回、訪問ヒアリングし、約1万社の企業データを分析。 また、コンサルタントとして、実際に1000社以上の企業の取組推進をサポートする一方で、内閣府や厚生労働省などの官庁や自治体の委員を歴任。*【第4回】内閣府地域働き方改革支援チーム委員(兼務 株式会社東レ経営研究所)渥美由喜(あつみ なおき)19 前回、発達障害者の特性ゆえ、上司のいうことを聞かずに職場ではよくトラブルになったと述べた。今回は、会社にとってなぜ発達障害者の活躍が重要なのかを述べる。 20代の半ばに思い立って、地域の子どもたちと週末に公園で遊ぶ「子ども会」のボランティア活動を始めた。冬のボーナスで、青いクマの着ぐるみを買った。当時は、まだ“ゆるキャラ”はなかったので、着ぐるみを着て公園に行くと大人気。しかし、この着ぐるみは、わずか5年で着られなくなった。別の公園で、リスの着ぐるみを着て少女をかどわかした悪い奴が捕まったからだ。当時、独身だった私に「あいつも怪しい」と厳しい目が注がれ、3回パトカーを呼ばれた。 職場で、トホホ話で笑わそうとしたところ、またもや上司から「警察沙汰だと!会社に迷惑がかかると困るから即刻やめろ。やめないと評価を下げるぞ」といわれた。平日の成績不良という理由ならともかく、週末の過ごし方で評価を下げられることを理不尽に思った私は、「そんなことで評価を下げられるものなら、下げてみればいいじゃないですか!」と反発した。 口は災いのもと。あっさり最低評価に下げられて、同期百数十人のなかで、私だけ最初の昇格が2年も遅れた。 毎年、行われる研修も二つ下の後輩たちと一緒。「上司に失礼な口をきくなんて、ダメな先輩だ」、「空気を読まずに周囲の怒りを買う発言をするアホな人」という蔑さげすみの目で見られた。 以来、「専門分野には詳しいけれど、簡単な事務業務ができない」、「融通がきかず、予定を少し変えただけで、感情をそこねる」、「職場の飲み会を『つまらないから』といって出席しない」、「人の気持ちを逆なでしたり、人の話を聞くのが苦手で途中で遮さえぎって怒らせる」といった言動で、職場や家庭で周囲を困らせてきた。これらの多くは、脳機能の偏りによる生まれつきの性格のような面があり、本人の努力で変えるのはむずかしい。 もし、私の親をはじめ、周囲が無理に直そうとしたら、精神的に負担になっただろう。いまも周囲は困っているはずだが、あきらめているようだ。「おまえがいうな」と思われるかもしれないが、「矯きょう正せいしようと躍やっ起きにならない」のが接し方の基本だと私は思う。 よく、発達障害は「コミュニケーション力に欠ける」といわれる。しかし、安易に立場の強い人の言動に迎合しないのは、職業によっては強みにもなる。研究者やコンサルタントもその一つ。総じて年齢や立場が上の人はいろいろな常識に縛られ、新しい時流の変化には鈍感だ。そういう人たちのいいなりでは、陳腐な研究しかできず、組織を変革するコンサルティングなんてできない。 変わり者と評される私は、ネット検索の使い方も人と違う。通常の用途は、「わからないことを調べる」だが、私は「自分が思いついたことを、まだだれもいっていないか確認するため」に使う。例えば、2004(平成16)年に「イクメン」という言葉を思いついたときに、厚生労働省のデータから検索したらゼロだったので、この造語を使い始めた。 日本の労働者は、総じてまじめで従順なタイプが多い。このため、業務の「標準化」や「だれでもできる化」と親和性が高く、集団で労働生産性を高めてきた。しかし、時代は大きな変革期を迎えている。AI(人口知能)やロボット技術の進展の本質は、「模倣」だ。これまでは長所とされた労働者の特性ゆえ、今後はAIやロボットで代替されやすく、他社と差別化を図りにくくなる。逆に、模倣がむずかしいのは、「通常とは違う感じ方、考え方をするタイプ」。 今後、付加価値の高い商品・サービスを生み出すのは、発達障害者を含む、個性的な社員を活かせる職場だ。ダイバーシティは必要不可欠だ。空気を読まずに周囲の怒りを買う職場や家庭における、周囲からのサポート

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