働く広場2020年6月号
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働く広場 2020.6務の求人票を出していた。高卒や短大卒の応募者7人を面接し、1日職場体験も行った。佐々木さんは面接の場で、みずから発達障害があることを語った。「人との会話などで急な対応がむずかしい」ということで、障害者手帳も持っていた。俊介さんは、最終的に佐々木さんを採用した理由について「仕事に対するひたむきさや真面目さを見て、彼女が一番活躍しそうなイメージがわいたからです」と話す。佐々木さんは「将来仕事に活かすために」と高校でパソコン部に所属し、ワードやエクセルの関連資格を取得するなど準備をしていたそうだ。「いろいろとソツなくこなすよりも、少しずつでもいわれた仕事を着実に覚えてくれるタイプのほうが、うちの事務員として任せていけると思いました。事務は基本的に1人でコツコツやる業務ですから」事務員としての大きな課題は、電話対応だった。だれなのかわからない相手からの電話は、戸惑って言葉がすぐに出てこないという。俊介さんはまず、電話をナンバーディスプレイ式に変えてみることにした。「社長や従業員、取引先などの電話番号を、彼女が自分で登録しました。電話を取る前に相手がわかるだけで、かなり精神的な負担が減ったようです」一方で佐々木さんは自ら「電話対応マニュアル」をつくった。ネットで見つけたさまざまな会話集を編集し、プリントアウトしたものをくり返し音読した。何枚にも増えたマニュアルを見せてもらうと、大事なところは蛍光ペンで下線が引かれ、新たに必要になった言葉もあちこちに書き加えられていた。同様に、支払い請求など少し複雑な作業も、マニュアルと細かいチェックシートをつくり、毎回ミスなくスムーズに行えるよう工夫している。 俊介さんは、佐々木さんと一緒に働き始めてから気づいたことがあった。それは社内業務のなかに「いつまで、どこまで」やるのかがはっきりしないケースが多いということだ。コピー枚数では「5、6枚」、在庫管理では「なくならない程度に注文を」といった具合で、数やタイミングがはっきりしない業務が彼女は苦手だった。それを劇的に変えたのが、オリジナルの『お仕事カレンダー』だ。まず、すべての業務を「いつ、何時に、どこまで」やるかを決める。毎月やるものは何日、毎週やるなら何曜日、毎日やることは時間にして決めてしまう。補充する数も「〇個以下になったら〇個補充。これは1~2カ月分相当」といったことも一緒に決めた。いまでは70種以上に増えた業務を、パソコン上のタスクツールリストに登録して管理している。「在庫管理の考え方などを最初に教え、あとはすべて自分なりに調べてつくってもらいました。それが仕事を覚えるうえで大事ですし、彼女も1人でできる能力がありますから」佐々木さんは、42インチの大型ディスプレイに、受発注に関するファイルなどを4画面並べながら仕事を進めている。デスク回りには5種類のプリンターをはじめ、スキャナーやバーコードリーダーなども置かれている。電子化、システム化された業務が多くなっているためパソコンスキルがいかんなく発揮できる。最近では、新たな業務も手がけるようになった。例えば、新入社員の社会保険の加入や年末調整などの手続きも、自分でネット検索して方法を学び、できるようになったそうだ。俊介さんは「以前は外部に委託していた業務までやってくれるようになり、予想以上の戦力です」と笑顔で話す。コミュニケーションに特性がある人と一緒に働くうえで、職場全体に「理解を広げること」もやはり重要だ。佐々木さんが入社した翌年、業務連絡を行う職場のリーダー4人を対象に、定例会議を利用して数回にわたり勉強会を行った。俊介さんは、自治体などが公開している資料を参考に、職場での支援ポイントや、コ苦手を得意に変えて、戦力に電話対応マニュアルには、手書きの追記も見られる8

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