働く広場2020年6月号
21/36

働く広場 2020.6発達障害で活躍するということ ― 一人ひとりの個性を活かす― 25年前からワークライフバランス(WLB:仕事と生活の調和)に着目した、ダイバーシティ、WLB分野の第一人者。これまでに海外10数カ国を含む、国内のダイバーシティ・WLB先進企業1050社、海外の150社を延べ4000回、訪問ヒアリングし、約1万社の企業データを分析。 また、コンサルタントとして、実際に1000社以上の企業の取組推進をサポートする一方で、内閣府や厚生労働省などの官庁や自治体の委員を歴任。*【最終回】内閣府地域働き方改革支援チーム委員(兼務 株式会社東レ経営研究所)渥美由喜(あつみ なおき)19 最終回の今回は、「発達障害のある人が職場や社会で活躍するメリット」について述べたい。 発達障害の特性は人それぞれだが、私が懇意にしている発達障害のある人の多くに共通するのは、突破力、突飛力、突風力、とっぽい(どことなく間の抜けた)魅力だ。 まず、「アクリルの障害物」の例話を紹介したい。水槽のはしっこで餌を与えると魚たちが群がる。その間に、そっと水槽の真ん中に透明なアクリル板を挿入して、水槽を2つの領域に分断する。魚たちは真ん中のアクリル板に何度かぶつかると、板の手前で転回することを学習する。その後、再度、餌を与えている間に、そっとアクリル板を取り除いても、あたかも板があったときと同じように狭い範囲で泳ぎ続け、決して板で遮られていた向こう側に行こうとはしない。 では、魚たちを向こう側に泳がせるにはどうしたらいいか。「かつてアクリル板があったこと」を知らない魚を1匹水槽に放せばよい。その魚が見えない壁を突破し、後に続いてほかの魚も広い水槽を泳ぎ始める。 私を含めて、発達障害のある人の多くはKY(空気が読めない)なので、アクリル板が目に入らず、周囲とぶつかっても学習しない。これを私は「突破力」と呼んでいる。 日本社会、日本の職場には、いまも見えないアクリル板があちこちにある。一方で、社会システムは大きな変革期を迎えており、実はもうすでにアクリル板がなくなっていることにだれも気づいていないケース、あるいは、かつては必要だったアクリル板を今後は取り除くべきケースが増えているように感じる。そんなとき、必要な存在は、「KY魚」だ。狭い範囲で周回している魚の群れにKY魚が混ざると、必ず壁を突破できるはず。 また、世間の常識に縛られない発達障害のある人は、イノベーションの源泉になりえる。たまに「渥美さんは、WLB(ワークライフバランス)もダイバーシティも、先見の明がありますね」と褒められることがある。いいえ、私には先見の明なんてまったくない。KYだから、よかったのだ。私が上司に反対されても、あきらめずに有給休暇を使って自腹で海外への視察に行ったりしながら研究を続けてきたのは、両親から「一芸を極めるように」といわれて育ったことと、発達障害で「KY」だったことが大きかった。 さらに、無風のところに突風を巻き起こすことで、砂の下に隠された真実があらわになる。だれにも気兼ねせずに、「おかしいことをおかしい」と主張できる「KY力」は、不祥事を予防するうえで貴重な役割を果たす。炭鉱で働く人は有毒ガスの危険察知のため、カナリアを連れていった。コンプライアンスを重視する職場にとって、「KY力」は不可欠なカナリアだ。 最後に、人によって違うかもしれないが、私はKYなので、あまりめげない。私は大学入学時に1年浪人、卒業時に1年留年したが、「浪漫がある人は浪人する」、「一留は一流の証」とうそぶいて、同じ環境の友人から「ノーテンキなおまえと話すと、なんだか元気になるよ」といわれていた。私自身はさておき、発達障害のある知人たちには、「普通と違って面白い」、「とっぽい魅力を感じる」人が少なくない。 長らく日本企業では、日本人、男性、健常者、24時間365日働けるモーレツ型が「標準」で、標準から外れた人たちを活かしてこなかった。同質化圧力が、バブルの崩壊後に長らく続いた、日本経済低迷の一因だと思う。 発達障害をはじめとする、一人ひとりの個性を活かすことができれば、社会はもっと楽しく、よくなるはずだ。ぜひ、発達障害のある社員を活かす職場づくりにチャレンジしてほしい。「とっ+ぱぴぷぽ」力とは同質化圧力が強い日本の職場にこそ、発達障害者の活躍を突飛なアイデアがイノベーションの源泉

元のページ  ../index.html#21

このブックを見る