働く広場2020年6月号
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働く広場 2020.6特別支援学校を卒業して半年ほど経っていた。実習では「いわれたことが守れるか」といった安全面のポイントを確認し、3カ月間のトライアル雇用に進むことになったという。トライアル雇用に向けた顔合わせには、中武さんと母親のほか神奈川障害者職業センターからジョブコーチを含め3人、就労移行支援事業所から2人、ハローワークの担当者ら計8人が川田製作所に集まった。俊介さんがふり返る。「最初の2週間は、就労移行支援事業所や職業センターの方がほぼ毎日、その後も週1回交代で来てフォローしてくれました。さらに2週間に1回、私と本人と支援者との三者面談を行い状況の確認やフィードバックができたので安心できました」トライアル雇用期間中に中武さんに担当してもらった業務は、手動で1枚ずつ金属片を型にはめるプレス加工。「3カ月後までに、従業員の平均枚数の7割をこなす」という目標も決めた。「これは生産性を維持できる戦力として望むことでもありました」と俊介さんは説明する。3カ月後、中武さんのこなせる枚数は5割ほどだった。だが、現場のリーダーから「途中までは集中力にムラがあったが、除々に数字も上がってきた。もう一度チャンスをあげてほしい」との申し出があった。穏やかな性格で周囲をなごませる中武さんを、何とか採用につなげたいという周囲の親心もあったようだ。俊介さんも、社会に出たばかりの若い中武さんの伸びしろに期待していた。ハローワークと相談し、もう3カ月だけトライアル雇用を延長した。「何とかして働きたい」と自覚した中武さんの意気込みは、勤務中の行動にも表れるようになり、結果として目標も無事にクリアできたそうだ。見学させてもらった工場には、大小26種のプレス加工機械が所狭しと並んでいた。その一角で中武さんが、薄い金属部品を1枚ずつ点検しながら型にはめてプレス加工していた。働いていて苦労することはないか聞いてみた。「数をこなすのが、とてもたいへんです。でも早くやり過ぎると失敗するので、ていねいに積み重ねていくようにしています。注意されることがたくさんありますが、ほめられることもあります」今後の目標を聞くと「実習生が来たら、やさしくていねいに教えてあげられるようになりたい」と笑顔で話してくれた。中武さんの指導役を務めるリーダーの成なり田た宗そう太た郎ろうさんに、職場で心がけていることを聞いた。「特に変わった教え方をしているわけではないですが、本人に向上心さえあれば、いくらでも面倒をみられると思っています。また、社長以下みんなを巻き込んで成長ぶりや課題を共有することも大事ですね」 中武さんが本採用されてから初めてわかったこともあった。なかでも業務に支障をきたしたのが「数字を数えることが苦手」ということだった。プレス加工では1人で1日数千個もの部品を手がけるが、加工途中でできた傷や変形といった不良品の数、クリアした良品の数などを記録しなければならない。中武さんの記録と実際の部品数を照らし合わせると、いつも合わなかった。本人によくよく聞いてみると、本当は5ぐらいまでしか数えられないことがわかった。そこで俊介さんが思いついたのが、交通量調査などで使われている数取器(カウンター)だ。通販サイトで売っていた3000円ほどの卓上用カウンターを購入し、「かこうまえ(加工前)」、「ダコン(打痕)」、「キズ(傷)」、「へんけい(変形)」、「ほか」というシールを貼って、見つけるたびにカウンターを押し、最後に書き写すだけで済むようにした。中武さんは数字を書くのも苦手で、判読できないことが多かったため、数字練習帳を渡して勤務時間外に練習してもらった。0から9までの数字の見本を本人の専用ファイルボードに貼って、忘れないようにした。「カウンターについては、ほかの従業員「数字が苦手」からの管理改善製品や工程に合わせ、各種加工機械を使い分けるリーダーで指導役の成田宗太郎さん6

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