働く広場2020年7月号
26/36

日5時間勤務だ。手慣れた手つきで野菜を袋詰めしていく。人間関係や生活リズムの維持に注力しながら、重要な仕事をこなす。ほかの社員から「ありがとう」と声をかけられると「役に立っている」ことを実感できるという。市川さんは、こうした定着支援のノウハウについて、就労支援機関からの適切な支援を受けるとともに、企業同士の支え合いの必要性についても強調する。障害者雇用に取り組む前は、たしかにハードルが高く感じることもあるが、同じ課題に向き合う企業同士が成功体験も失敗体験も共有しながらサポートを展開することでそのハードルを乗り越えていくことができる。協議会会長の石田さんの考えにも通じている。さらに、今後の障害者雇用について、同社での実践をふまえ、次のような期待を抱く。せっかく働く意欲があっても、障害状況や体調の面から、1カ月80時間、すなわち週20時間労働ではハードルが高すぎる障害者が少なくないことを実感しているとのこと。障害者雇用率制度上は週20時間以上30時間未満の場合には0・5カウント(※1)になるが、「例えば、1カ月50時間労働で0・3カウントとするような工夫があってもよいのではないか」。事業所が障害者雇用を短時間で抑え込もうという意図はまったくなく、1カ月50時間であればチャレンジできる障害者に活躍してもらいたいという願いである(※2)。雇用は、湯浅さんの前任者、松まつ田だ由ゆ紀き子こ前しごとねっとセンター長への働きかけがきっかけだった。「障害者雇用をどうしたらいいか」という相談からのスタート。下北沢店での精神障害者の雇用第一号を皮切りに他の店舗へと広がっていった。その経緯からも、障害者雇用では世田谷区のネットワークとの関係が深いことを改めて実感させられる。市川さんの案内で管理本部の事務室を訪ねる。ここは全店舗の管理をになう重要拠点。6年目を迎える石いし橋ばし洋ひろ晃あきさん(40歳)は月曜日から金曜日まで1日5時間勤務する。体調の関係で休んでいたこともあったが、現在は元気に仕事をこなしている。市川さんは、定着の決め手は「業務日誌」だという。日報として、例えばコピーの作業が困難だったいう課題が伝えられると、ただちに話し合い、問題解決を進める。個々の障害者の働きやすさを実現するための「一人ひとりに合わせていく」というポリシーがここでも活かされている。仕事をするうえで、同僚から「助かったよ」と返されるのがとても嬉しいという石橋さん。今度は、同じビル1階の下北沢店のバックヤードへ。配送された青果の袋詰めに取り組むのは、就職して1年ほどの鈴すず木き毅たけしさん(51歳)。月曜日から木曜日までの11階がスーパーマーケットオオゼキ下北沢店であるビルの3階から、社員専用の階段を元気に降りて来られたのが、総務人事部採用課長の市いち川かわ秀ひで哉やさん。市川さんは、採用担当として2013年から7年務めるベテランだ。オオゼキでは、前述の「個客」主義と並んで、本社から強い指示を出すのではなく、各店長が創意と工夫を凝らす「個店」主義が重視されているという。店長経験もある市川さんは、こうした個々の取組みをサポートしつつ、正規社員で1200〜1300人を有する同社の障害者雇用を進める責任者でもある。さっそく、世田谷区の障害者就労支援のネットワークについてうかがうと、就労支援機関は「通訳のような存在」という。例えば、ある定着課題について、障害のある従業員にどのように伝えたらよいか迷ったとき、事業所と本人の間に立って伝えてくれる存在、すなわち通訳である。支援機関からは、「例えば『だいたい』とか『いつも通り』といった曖昧な表現はわかりにくいですよ」といった助言を得ることができる。市川さんの職場定着の基本ポリシーは「一人ひとりに合わせていく」。その際に地域ネットワークに裏づけられたサポートが欠かせない。市川さんが担当になって最初の障害者地域ネットワークを背景に積極的にチャレンジ適切な支援を得て働く働く広場 2020.7「株式会社オオゼキ」総務人事部採用課長の市川秀哉さんオオゼキの管理本部で事務作業を行う石橋洋晃さんオオゼキ下北沢店※1:重度以外の身体、知的障害者および精神障害者の場合(精神障害者については特例措置の要件に該当しない場合)※2:週10~20時間未満で働く障害者を雇用する事業主の方へ支給される「特別給付金」という制度があります。詳しくは当機構HPでご覧くださいJEED 特例給付金検索24

元のページ  ../index.html#26

このブックを見る