働く広場2020年8月号
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働く広場 2020.8ムも掲載されている。“英社員”は「私には発達障害の自閉症スペクトラム(漫画のなかではASDアスペルガー症候群と表記)があります」と公表したうえで、漫画に出てくるさまざまな障害特性や、自身のこれまでの社会生活、職場生活について語っている。自己紹介欄にある上半身のイラストは、キリっとメガネをかけた青年だ。実際に執筆しているのが、ハーティ社員の金かな山やま俊とし男おさん、62歳と聞いて驚いた。「あのキャラクターは、私が希望して描いてもらいました。内容も、28歳ぐらいの自分を思い出しながら書いています」と笑って答えてくれた。金山さんはもともとドコモ・サービスで岡本さんと一緒に働いていた縁で、ハーティ設立と同時に移ってきたそうだ。自身がASDの診断を受けたのは4年前。ハーティで障害者雇用のための資料をつくっているときに「あれ、これって自分のことじゃないか?」と気づいたのがきっかけだという。「当時、ネット上で公開されていたASD判定チェックシートも試して、『いよいよそうかもしれない』と確信し、友人の紹介で精神科医に診断してもらいました。そのときに自分の半生をふり返って書いたメモを見てもらい、その分量の多さに、先生も納得されました」金山さんにとって診断は「あくまで確認にすぎない」ものだったそうだ。ただし感覚過敏のため、仕事中は遮音するためのイヤーマフ(※2)を使用、部屋の明るさも調整してもらっている。配慮してもらえるようになったのは、日報のSPiSを通じて伝えたからだそうだ。岡本さんは「毎回、金山さんは2千字ぐらい書いてきます。長年同じ職場だったのに、そんなふうに感じていたなんて、まったく気づかなかったなと驚くことばかりです」と話す。ハーティで働く知的障害のある社員たちにも、発達障害の特性を合わせ持つケースがあり、金山さんの解説やアドバイスがとても役立っているという。岡本さんは「金山さん自身、ハーティで文章を書く仕事が増えるようになってから、会社を休まなくなりましたね」とつけ加える。 ハーティは、ホームページのなかで、障害者雇用を進めてきて気づいたことを記している。「当初、私たちは障害の理解があれば、雇用定着につながるはずだと考えていましたが、いまでは、障害理解のみでは十分ではなく、本来多様である人間そのものを深く理解することこそが重要なのではないかと考えるようになりました」そしてグループ各社に、これらの気づきをフィードバックしていくことで、「なぜ、多様性を受け入れていくことが経営上必要なのか」という問いに対する一つの回答を示すことになる、としている。岡本さんは次のように補足する。「みなさんの職場でも、少しとんがっている部分があって、力を発揮できずに人間関係でつぶれてしまうような人が少なくないと思います。惜しい人材ですよね。多くの日本企業では、どうしても決まったルールやコミュニケーションを重視してきました。でも今後は、そういう環境に無理に合わせなくても能力を発揮していける職場がもっと増えていくはずです。職場環境を少し変えるだけで、会社にとってすばらしい働きをする人、イノベーションを起こす人も出てくるかもしれません。何か光る能力を持った人材を、いかに流出させずに活躍してもらう環境をつくっていけるか、ハーティでも引き続き模索していきたいと思っています」インタビューさせてもらった会議室からガラス越しに見える事務フロアには、大きな字で書かれたコーポレートスローガンが掲げられている。「わたしたちの 挑戦が いつか あたりまえになる その日まで~あせらず  あきらめず  あなどらず~」「いつか、あたりまえに」コラムを執筆する金山俊男さんコーポレートスローガンが掲げられた事務フロア※2 イヤーマフ:耳全体を覆う防音保護具9

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