働く広場2020年8月号
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働く広場 2020.8――2008︵平成20︶年に﹃日本でいちばん大切にしたい会社﹄を刊行して以来、数多くの著書で「いい会社」の独自の基準を示していらっしゃいますね。 私はこれまで約50年にわたり、8千社超の現地調査と企業研究を続けてきました。そのなかで、世間の好不況にかかわらず黒字経営を維持してきた「いい会社」というのは、総じて「人を大切にしている」ことがわかりました。人の活動には「目的・手段・結果」の三つがありますが、いちばん大事なのは「目的」です。では会社の目的は何でしょうか。それは業績ではありません。自分や周りの人を幸せにすることです。事業を行うときも「儲もうかるかどうか」ではなく「人を幸せにするか否か」で判断する。こうした経営理念を貫けば、おのずと業績もついてくるものです。 私は「いい会社」の基準として、いわゆる「(売り手・買い手・世間の)三方よし」ではなく「五方よし」を挙げています。 五方を優先順に並べると、①社員とその家族、②仕入れ先や協力企業などで働く社外社員とその家族、③現在顧客と未来顧客、④地域住民、とりわけ障がい者や高齢者などの社会的弱者、⑤出資者や関係機関。会社にかかわるさまざまな人たちを大切にする、となります。 私の本を読んだり講演を聞いたりした方たちからは、これまで多くの反響をいただいています。ある人は「自分の会社がうまくいかないのは、戦略や戦術ではなく、そもそもの会社のあり方に問題がありました」と直接メールをくれました。会社を倒産させてしまったという人からは「これまで何百冊という経営の本を読んで実践してきたつもりでした。でも先生の本を読んで、つぶれるべくしてつぶれたのだと納得しました」と。 ある母親から長文メールが届いたこともあります。「3人の子どもに障がいがあり、将来のことを思うと夜中に目が覚めて眠れないときもありました。でも先生の本を読んで、もしかしたら子どもたちも就職できるかもしれないという希望を持てるようになりました」と。私は涙が止まらなくなって、すぐに返信しました。一方で、九州に住む障がいのある女性からは「うちの会社にも来て、社長をほめてください」という手紙も来ましたね。――その後「人を大切にする経営学会」を立ち上げ、2010年からは毎年「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞を選定・表彰しています。 私たちが表彰制度をつくったのは、世の中に「いい会社とは何か」を示すためでもあります。これまで世間一般に「いい会社」といわれてきた、いわゆる成長企業や好業績の企業というよりも、「正しいことを、正しく行っている会社」です。これを50項目の審査基準で可視化して、客観的※本誌では通常「障害」と表記しますが、坂本光司氏の要望により「障がい」としています「いい会社」とは何か経営学者・千葉商科大学大学院中小企業人本経営(EMBA)プログラム長坂本光司さんさかもと こうじ 1947(昭和22)年、静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院中小企業研究所所長などを歴任。専門は中小企業経営論、地域経済論、障害者雇用論。『日本でいちばん大切にしたい会社1~7』(2008~2020年、あさ出版)など著書多数。2010年に「人を大切にする経営学会」を設立、毎年「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞を選定・表彰している。独自の基準﹁五方よし﹂2

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