働く広場2020年8月号
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働く広場 2020.8に判断しています。実は応募するだけでもハードルは非常に高いんですよ。いずれも過去5年以上に渡って、「リストラ(人員整理)をしていない」、「仕入れ先などに一方的なコストダウンなどをしていない」、「営業利益・経常利益ともに黒字」などの六つの条件をすべてクリアしていることとしているため、かなり厳しい基準になっていると思います。審査も絶対評価です。 それでも応募数は年々増えていて、10回目となる今年は110社にのぼりました。社員やその家族、取引先からの応募が多く、よい傾向だと思っています。今年は表彰した企業も過去最大の20社にあがりました。 ちなみに私たちは、学会費や寄付などで運営をまかなっていますが、国などからの補助金などは一切もらっていません。「かぎりある血税は弱者のために」というのが信念です。私自身、全国各地の対象企業の現地調査にかかる交通費なども一切もらいません。毎年結構な負担ではありますが、限界になるまでずっと自費で行き続けるつもりですよ。――応募資格にある六つの条件の一つには、障がい者雇用への取組みもありますね。 「障がい者雇用は法定雇用率以上である」という条件を挙げています。これには、二つのただし書きもついています。一つは、常勤雇用45・5人以下の企業で障がい者雇用をしていない場合は、障がい者就労施設などからの物品やサービスの購入など、雇用に準ずる取組みがあること。もう一つは、本人の希望などで障がい者手帳の発行を受けていない場合は実質で判断する、というものです。 会社の規模が小さいとか、諸般の事情があるというならば「間接雇用」や「みなし雇用」をするべきです。福祉作業所や就労支援施設に仕事を発注したり、そこから商品などを購入したりする取引を安定的に続けることです。 みなさんに考えてみていただきたい。人間の幸せというのは、人に「ありがとう」といい続ける人生ではありません。だれかに「ありがとう」といってもらえる人生です。「あなたのおかげだ」といわれる機会があるから、がんばれる。その機会が日常的に与えられるのが、働く場です。障がいがあってもなくても、働きたいと願うのは、幸せになりたいからです。会社を経営する人たちにはぜひ、こういう視点を持っていていただきたいと思っています。――現地調査をするなかで、「いい会社」だと感じるのはどんな職場ですか。 日々いろいろな企業を訪問していますが、いい会社かどうかというのは、会社に足をふみ入れたときに、半分ぐらいわかってしまいます。例えば、社内を流れる空気。いい会社はほんわかと温かく、そうではない会社は冷たい風が吹いている。これはプロではなくても感じると思いますよ。あとは社員の目つきや表情、社員食堂や休憩場所を見るとわかりますね。それから何といっても「いい会社」は、辞める人や転職していく人が圧倒的に少ないんですよ。職場環境を左右するのは経営者です。私は「経営者格差」といっています。 最近の話を紹介しましょう。コロナ禍かに陥ったとき、従業員50人ぐらいのある会社では、マスクと消毒液が配布されたのですが、それは社長さんの家族が一つひとつ、メッセージカードを添えて、ていねいに包装したものだったそうです。受け取った社員は「会社が私たちを守ってくれていると実感した」と話していました。彼らはきっと、「会社のために一層がんばろう」と思うでしょうね。――最後に、今後の抱負について教えてください。 これまで大学院などで数多くの社会人学生を受け入れ、学会や講演の活動を通じて全国各地に仲間が増えましたが、いい会社、いい経営者を増やすには、なにより教育が大事だと痛感しています。そこで今年度、千葉商科大学と「中小企業人本経営(EMBA)プログラム」を共同開講することができました。人を大切にする経営に関心のあるリーダーは、ぜひ応募してほしいと思います。今後は、「人を大切にする経営」をテーマにした月刊誌も発刊したいですし、人本主義(注)に立った新しい経営辞典もつくりたいと考えています。やりたいこと、やるべきことは、まだまだたくさんあります。(注)人本主義:業績や勝ち負けではなく、人をトコトン大切にする経営を基本にする思想人にとって働く場とは3

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