働く広場2020年8月号
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働く広場 2020.8携帯電話サービスなど移動体通信事業で国内最大手の「株式会社NTTドコモ」(以下、「ドコモ」)グループが、障害者雇用を推進することを目的に2015(平成27)年に設立した「株式会社ドコモ・プラスハーティ」(以下、「ハーティ」)は、翌2016年に特例子会社として認定された。グループ全体の雇用率は2・38%だ(2019年6月1日現在)。ハーティの大きな特徴は、重度の知的障害のある人を中心に雇用が進められたことだ。ハーティの全社員142人のうち障害者は97人(うち重度身体障害者2人)、このなかで70人は知的障害の重度判定を受けている(2020年4月1日現在)。手がけるおもな事業は、ドコモグループ自社ビル内の清掃業務と、グループ各社の障害者雇用・定着支援となっている。ハーティの設立には、ある社員の熱意が大きくかかわっていたようだ。ハーティの事業運営部で業務推進部門担当部長を務める岡おか本もと孝たか伸のぶさんである。もともと岡本さんは、ドコモグループの人材派遣業務などをになう「ドコモ・サービス株式会社」に在籍していた。2009年のある日、岡本さんは新幹線で地方に向かう際、たまたま目にした本を買って車内で読んだ。その本というのが、ちょうど本誌「この人を訪ねて」のコーナー(今月号2~3ページ)に登場する、坂本光司さんの『日本でいちばん大切にしたい会社1』だった。そこで紹介されていた、当時社員の7割が障害者だというチョーク製造会社「日本理化学工業株式会社」(神奈川県)のエピソードを読み、岡本さんは思わず涙があふれてきたという。「実は、それまで障害者雇用というものをほとんど知りませんでした。私には娘がいますが、もし、娘に重い知的障害があって、でも本人が『働きたい』といったら、どうするだろうかと考えたのです」それ以来、「障害者雇用のことが頭から離れなくなった」岡本さんは、自分の職場に障害者雇用の専門部署を立ち上げることを考えるようになったという。まずは基本的なことから学んでみようと、岡本さんは、「東京中小企業家同友会」の障害者委員会(2017年に「多様な働き方推進委員会」へと名称変更)が開催していた自主勉強会に参加。そこで出会った福祉施設の関係者から、重度の知的障害のある人が取り組む清掃業務活動のことを聞き「これだ」と思ったそうだ。その福祉施設で採用されていたのは「チャレンジドハウスキーピングシステム」という、障害者と健常者が一緒に作業を行う清掃方法だった。約30年前から医療環境整備に関する事業を手がける「東栄部品株式会社」(東京都)が開発し、全国各地の福祉施設(約40カ所)で導入されている。欧米などで使われている清掃器具を用いて、個々の力加減などに関係なく均一の清掃効果が期待できるという。薬剤は、人体に無害で高除菌力があるとされる製品を使用。「病院の手術室で行われるような感染防止を含めた高いレベルの衛生管理を、ハーティの清掃業務でも実践できます」と岡本さんは話す。そして2012年、ドコモ・サービスはハーティの前身である「ハーティ推進担当」部署を設置し、ハローワークを通じて就労移行支援事業所から計6人を採用。自社ビルの事務室や休憩室の清掃業務を行うことにした。2015年にハーティとなってからは本格的に採用数を増やし、清掃箇所も食堂、廊下、トイレなどへと拡充し、清掃拠点も東京都・神奈川県・大阪府にあるドコモグループビル6カ所(各センター)に広がっている。折しも、新型コロナウイルス感染症の問題が広がったいまは、この清掃方法に対する評価が一段と高まっているそうだ。清掃業務の具体的なポイントを、列挙してみよう。ドコモグループの特例子会社1人の社員が会社設立に動くだれが取り組んでも均一な清掃重度の知的障害のある社員が取り組めるよう、清掃の器具や手順を工夫安全に長く働き続けるために、学習支援やヨガを導入運営実績をフィードバックし、グループ各社の支援も123業務推進部門担当部長の岡本孝伸さんPOINT5

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