働く広場2020年9月号
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働く広場 2020.9子育て支援活動の様子 結婚2年目、28歳のときに保育園へと向かう通勤途中の交通事故により頸髄を損傷し、重い障害が残った。 生きる希望を失いかけたなか、2006年に新しい命を授かり、無事に第1子を出産。車いすで家事や子育てをしながら、全国で実体験に基づいた講演活動や、「埼玉県家庭教育アドバイザー」として子育て支援活動をしている。 著書に、『ママの足は車イス』、『ちいさなおばけちゃんとくるまいすのななちゃん』(ともに、あけび書房)がある。又また野の亜あ希き子こ 『ママの足は車イス』著者/元幼稚園教諭・保育士19 ある講演での出会いから、「埼玉県家庭教育アドバイザー」という資格の存在を知りました。保育士の資格があり、幼稚園教諭をしていた私にとって、子育て支援活動はたいへん興味深いものです。「私にできることがあるのなら、資格取得に挑戦してみたい」と思いました。 ところが、ひとことで「資格取得に挑戦」といっても、この資格を得るためには研修を受けなければなりません。身体に障害のある私にとって、研修会場への移動など容易なことではありません。いまでは電動車いすも使用していますが、当時は手動車いすだけでした。研修会場は駅から徒歩10分。手動車いすではたいへんな道のりです。悩んだ挙句、資格取得を諦めかけていました。そんなとき、それを知った埼玉県庁職員の方から温かなご配慮をいただきました。それは、「チームぴかぴか」のスタッフによる、駅から研修会場までの介助です。 「チームぴかぴか」とは、埼玉県の特別支援教育課が行っている障害者雇用促進に向けたモデル推進事業で、県教育委員会が特別支援学校卒業生を雇用し、職業スキルの向上を図り、一般企業への就職を目ざす取組みです。身体障害のある私を、知的障害や発達障害のある若者がサポートしてくれたでのす。彼らは、初めての車いす介助に戸惑いつつも、一生懸命介助してくれました。私は、彼らのおかげで無事、研修を受講し、2015(平成27)年、資格を取得することができました。 そして現在「埼玉県家庭教育アドバイザー」として、子育て支援活動をしています。月に1度、加か須ぞ市との共催でアドバイザーが集い、子育てサロンの運営や簡易通園母子訓練施設(発達に遅れが見られる乳幼児が親子で通園する施設)で親への支援活動を行っています。私にとって、子育て支援という形で子どもたちの成長にかかわれることは、とても幸せなことです。 車いす姿の私を見た子どもたちのなかには、戸惑う子もいます。初めのころは、その子たちの反応に動揺しました。私自身、障害者として社会に出ることにだいぶ慣れていたために、自分でもその動揺が意外でした。しかし、次第に子どもたちも保護者も障害者の私に慣れてきてくれていることに気づきました。私のもとに「これ読んで」と何冊も絵本を持ってくる女の子、車いすのブレーキやタイヤが触りたくて集まってくる男の子、子育ての喜びや悩みをこぼす保護者、それらの触れ合いを通して、自分の存在が認められているように感じ、嬉しくなりました。また、この活動から私のような障害者の存在を知り、慣れてもらうことに大きな意味があると思うようになりました。今後も、「私だからこそ」できる子育て支援活動を続けていきたいです。 「私もがんばらなきゃ!」、「あれもこれもできるようにならなきゃ!」と、見えない先を考えては不安になったり焦あせったりしている時期がありました。やがてそんな自分に苦しくなり、「できないことは周囲に助けてもらい、私は私にできることを精一杯やればいい」と思うようになりました。それからは、目の前にあることを一生懸命にこなしてきました。それが、いまにつながっています。つい、他人と比較しては落ち込んでしまう自分。今後は、さらに自分を深く見つめ、「私だからこその良さ」を探しながら生きていこうと思っています。*【最終回】重度障害とともに~さらにできることに挑戦してみたい! 子育て支援活動への取組み~「私だからこそ」の子育て支援活動埼玉県家庭教育アドバイザー資格取得おわりに

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