働く広場2020年9月号
23/36

小谷さんは、当時机を並べていた高たか木ぎ協きょう一いちさんと一緒に、「障がい者雇用推進プラン」をつくり経営者側に提案した。それは次の通りだ。「障がい者雇用を取り巻く環境は厳しさを増す一方だ。身体に障がいのある人の採用市場は枯渇しつつある。また、さらなる法定雇用率の引上げも予定されている。一方で、発達障がいのある人の雇用がメディアでも注目され始めている。精神障がい、発達障がいのある人の特性であるコミュニケーションや優先順位づけなどの苦手な点に配慮し、業務管理者のもとでタスクや体調を管理しながら、得意分野の業務に集中できる職場環境をつくることが有効なのだ。だれにでもできる簡単な仕事をやってもらう障がい者雇用ではなく、『特定分野の高付加価値の業務に集中して取り組んでもらう』障がい者雇用だ」その障がい者雇用推進プランで示された「特定業務集中職場」が、高木さんを中心に1年間の準備期間を経て、2017年に誕生した。恵比寿本社の「オフィス・事務サポートセンター(現・恵比寿事務頻発し、退職者が後を絶たない状況だった。身体障がいのある人の採用市場は枯渇していることはわかっている。でもまた、精神障がいのある人を採用してもすぐに退職してしまうだろう。各部門に精神障がいのある社員を、受入れ環境を整えないままに配属すると、障がいのある社員も、一緒に働く社員も互いにつらい。身体に障がいのある社員の場合は周囲の社員が何に配慮すればよいか比較的わかりやすいが、身体障がいのある人の雇用と同じ考え方で、精神障がいのある人の雇用を進めてはならない。小谷さんは、その思いのもと、他社の障がい者雇用の取組みを積極的に研究し、部門に配属していく形ではなく、障がいに配慮された環境を整えていくことが定着率に貢献することを知る。そして、精神障害者保健福祉手帳を持つ社員のなかには、精神疾患のある人だけでなく、発達障がいのある人も含まれており、他社では発達障がいのある人の雇用が進みつつあることも知った。「全面的に方針を変える必要がある」、小谷さんはそう感じた。障がい者雇用責任者の小こ谷たに彰あき彦ひこさんが、人事部ダイバーシティ推進室に異動になった2015(平成27)年。「あいおいニッセイ同和損害保険株式会社」(以下、「あいおいニッセイ同和損保」)では、障がいのある社員の採用数を拡大し、82人を採用したものの、退職者が73人発生していた。在籍していた身体障がいのある社員の定年退職、2013年から積極採用した精神障害者保健福祉手帳を持つ社員の相次ぐ早期退職などが要因であった。2013年に採用した精神障がいのある社員30人は、半数が1年以内に退職した。残った社員にも体調不良、勤怠不良、業務遂行不良、人間関係のトラブルなどが障がい者雇用推進プランで示された「特定業務集中職場」従来型の障がい者雇用では、精神・発達障がい者も一緒に働く社員もつらい働く広場 2020.9人事部ダイバーシティ推進室担当次長(障がい者雇用・活躍推進統括)の小谷彰彦さん相次ぐ早期退職を受け、障がい者雇用推進プランを提案社員の特性、強みを活かした業務を行うサポートセンターを開設同じ「特定業務集中職場」のコンセプトを他拠点にも展開123POINT※本誌では通常「障害」と表記しますが、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社様の要望により「障がい」としています21

元のページ  ../index.html#23

このブックを見る