働く広場2020年10月号
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でもそうです。でも、彼のそのひたむきな姿勢に周りが動かされ、「座学にない社員教育があるのだ」と学びました。その後彼を雇い、一人では淋しかろうと、毎年複数人を雇用しました。 あまりにも得るものがあったので、それでは沖縄県にも同友会の「障害者問題委員会」のようなものをつくろうと、「健障者委員会」と名前をつけ活動を始めました。私が一番成長させていただいたなと思える委員会です。髙橋正志(以下、髙橋) 私が同友会へ入会したのは14年前です。入会後しばらくして岡山同友会に障害者問題委員会を立ち上げ、私が初代の委員長になりました。当時、わが社はまったく障害者の雇用にかかわっていなかったため、大阪同友会で積極的に障害者雇用に取り組んでいる奥脇学さんに岡山県まで来てもらって、障害者雇用について教えていただきました。特別支援学校の先生との連携が必要だということで特別支援学校に行き、子どもたちの素晴らしい挨拶に感動し、「こんなに一生懸命に勉強や実習をしているのに、なんで仕事先がないのだ」と気づいたのです。企業側に受入れ体制ができていないだけでなく、無関心なことがすごく残念でした。それからと生存条件」という言葉を教えてもらいました。「生産条件ばかりでなく、そこで働く人の命を守る生存条件にも目を向けなくてはいけない」という意味です。このような「人間尊重の経営」を謳うたう同友会で、社会的弱者の立場で考え行動するのが障害者問題委員会だと思います。三鴨 奥脇さんは同友会に入られる前から障害者を雇用されていたのですか?奥脇学(以下、奥脇) はい。創業2年で大阪同友会に入会しました。創業したときから障害のある人とかかわっていたので、そういった活動自体は以前からやっていました。同友会に入ってから、障害者のことを考える委員会があると聞いて、「1回入ってみたいな」と思ったのがきっかけです。大阪同友会の障がい者部で活動し始めて、2008(平成20)年4月に第1回の関西ブロックの交流会を大阪府で開催しました。そこから関西の活動が活発になっていき、それとともにのめり込んでいった感じですね。三鴨 入会後、どんな学びがありましたか?奥脇 同友会には、経営指針を学びたくて入りました。人を生かす経営とか、ともに生きるという文化。実は、そういう分け隔へだてなく一緒に働いて一緒に生きるは、お互いを知ろうと特別支援学校の先生たちと定期的な勉強会などを行い、少しずつですが雇用する企業も増えていきました。 わが社は薬局を経営していますが、身体障害・精神障害・発達障害のある社員を雇用しています。つねに、どうやったら仕事を続けてもらえるかを考えています。また、薬局の待合室で障害のある人がつくった、さをり織りやネックレス、備び前ぜん焼やきなどの商品を販売しています。その売上げは、販売元の特別支援学校の子どもたちに現金で手渡しています。三鴨 岡山同友会で障害者問題委員会を立ち上げた経緯が劇的で驚きましたが、よくつくられましたね。髙橋 同友会全国協議会元会長の故赤あか石いし義よし博ひろ(1933〜2016年)さんとの出会いが大きかったと思います。同友会理念は、「命の重さに重い軽いはない」という命の尊厳性が原点だと教えていただき、私の心に火がついたのです。同友会ができた1957年ころは「大企業ががんばっているから日本は発展している」といわれていましたが、それがいまではまったく変わって、「中小企業は社会の主役で、日本の経済を牽引する力だ」といわれるようになりました。これは、同友会の先人たちの努力のおかげです。その精神が、障害者問題委員会の根底にもあると思っています。赤石さんには「生産条件経営指針を学んだ先に岡山同友会 障害者問題委員会の立ち上げと故赤石義博氏同友会の労使見解と全国協議会元会長の赤石義博氏 戦後、中小企業では、戦争の痛手や物資不足などの困難に加え、労使の対立問題が起こりました。しかし、労働者が大企業に対して労働条件の改善を求める「春闘」に代表される運動を中小零細企業にあてはめると、ひとたまりもありません。そのため、同友会は、「労働対資本」といわれる対立ではなく、「経営者と従業員は力を合わせていく仲間であり、経営者は全力で労働者を守る」という見解にたどりつきました。「人間も企業も生き残るという生存条件をどのように確かにするかが重要」と説いています。 赤石氏によれば、同友会の目ざすものは「人間的な尊厳、魂の自立、基本的人権をしっかり守ること」だといいます。この精神をふまえ、企業の利益の追求ばかりでなく、「人間らしく生きること」を重要とする同友会が、「障害があってもなくても働ける企業」、「人を生かす経営」を目ざすのは自然な流れとなって息づいています。働く広場 2020.10髙橋正志さん(岡山同友会/株式会社マスカット薬局)提供写真22

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