働く広場2020年10月号
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働く広場 2020.10私が社会人となったのは1981(昭和56)年、国連が定めた国際障害者年という年です。「完全参加と平等」を掲げ、障害のある人も障害のない人と同様に「地域でのそれぞれの暮らし」を実現することが求められたのです。あれから40年、この「働く広場」も創刊から40年余りということですが、この間、障害者支援のあり方も大きく変化しています。当時、脳性マヒなど障害が重くて働きたくても働くことができず、「社会のお荷物」などと呼ばれてしまうこともあった人々の意識が、大きく変わりました。アメリカの自立生活運動などの影響もあり、「自立とは働いて納税者になるだけではない。自分が決めた生き方を貫くこと、むしろ精神的自立だ」という考え方も広まり、「自立観のコペルニクス的転回」などといわれました。そのころ私はリハビリテーションセンターに勤務し、「障害を克服」して障害がない人と同じように働くために、職業訓練などの「がんばり」を障害のある人に求めていました。しかし、いまは「障害があるままでも働ける職場環境の整備」の重要性が認識されるなど、障害者雇用に対する考え方も大きく変わりました。これは、2006(平成18)年12月に国連総会で採択された、障害者権利条約の「合理的配慮」を提供するということにもなり、「ともに働く」が確実に広がっています。条約の最大の注目点ともいわれる、長く定説とされてきた、障害は病気や外傷などから生じる個人の問題であり、医療を必要とするものという「医学モデル」から、障害はおもに社会によってつくられた状況に原因があるとする「社会モデル」への障害観の転換の成果です。さらに最近は、歩けないなどの機能障害は欠陥ではなく多様性の一つ、とみなす「人権モデル」の障害観も注目されています。障害者が働けないことは本人の責任ではなく、社会のあり方が問われるべきであり、障害者を否定的に見る意識こそが問題なのだ、ということもできるでしょう。国際障害者年を機に、「障害のある人もない人もともに生きる」というノーマライゼーション(Normalization)の考え方が日本にも浸透したといわれます。しかし、障害者権利条約にはノーマライゼーションという言葉はまったく出てきません。代わって登場したのがインクルージョン(Inclusion)です。インクルージョンとは、「include(包み込む)」の名詞形で、「exclude(排除する)」の反対語です。それまでの歴史では、障害のある人たちを地域から隔離した施設に「排除」してきました。しかし、このように障害者を地域から排除するのではなく、包み込んでともに暮らすというのがインクルージョンの考え方です。そのためには、障害による困難を社会が支え、合理的配慮を提供することが求められます。こうした国際障害者年から40年「自立観」、「障害観」の変化ノーマライゼーションからインクルージョンへInclusive Vocationの実現へ 〜就労支援の40年からさらなる進展を〜東洋英和女学院大学人間科学部 教授石渡和実2

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