働く広場2020年11月号
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働く広場 2020.11ルに巻き込まれて、普通に働けなくなるケースもあります。安定して就労定着してもらうためにも、私たちができるかぎりの指導と支援をしています」日豊製袋の敷地内には「社員寮」として簡易的な住居施設があり、知的障害のある4人の従業員がそれぞれ自炊生活をしている。「いずれも家族とは暮らせない、もしくは家族がおらず一人暮らしにリスクのある従業員のために、特例措置として住居を用意しました」と三樹男さんが説明する。ある従業員は、給料があるはずなのに昼食を食べていないため事情を聞くと、母の死後に同居していた兄に、お金を取られていたことがわかった。三樹男さんはすぐに社員寮に引っ越しをさせ、兄に近づかせないよう手立てをしたという。別の従業員は、「住み込みの会社でリストラにあい、住む場所もお金もない」とハローワーク経由で相談され受け入れた。なかには結構な金額の借金を抱えている従業員もいた。「悪い連中に取り込まれ、知らないうちに障害年金や給料を取られていたことがわかりました。すぐに顧問弁護士に相談して法的措置を取り、相手には会社に立ち入らせない内容証明などを送り、関係を遮断させました」その従業員もいまでは借金を清算し、貯金をするまでになっている。自己管理がむずかしいと思われる従業員の給料については、地元の社会福祉協議会と連携しながらある程度の管理をしている。家計について考えられるよう、自分で買い物をすることもうながしている。自分の給料とモノの値段を比べて金銭感覚を養ってもらうためだ。幸いなことに、三樹男さんたちが同行しなくても、地域の人たちの目がある。「彼らが遊びに行くのは近くの商業施設など、かぎられた場所ですが、たまに地元住民の方が『日豊さんとこの従業員さんが、変な人と一緒にいるよ』などと通報してくれます。地域社会のなかで、安全で安定した生活ができることで、本人たちの心身も落ち着き、結果的に職場の生産性の向上にもつながっています」敷地内に住む従業員たちは、いまでは率先して作業の段取りをしてくれるなど大事な戦力になっていて「とても助かっています」と三樹男さんは頬ほおをゆるめる。 従業員の安定した就労を支えている取組みの一つに、日記もある。研二さんの時代に始めたものだ。形式は自由。「今日は○○の作業をやった」、「家で○○をした」といった日常記録のほか、「○○さんに怒られた」、「○○とケンカした」といった小さな出来事の記述もある。確認するのは三樹男さんだ。社長として多忙な業務の合間を縫って定期的に目を通「お母さん的存在」の工場長それぞれが仕事や私生活について自由に記載した日記帳8

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