働く広場2020年11月号
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働く広場 2020.11 香川大学教育学部教授、香川大学学生支援センター バリアフリー支援室室長、香川大学教育学部附属坂さかいで出小学校校長・附属幼稚園園長、言語聴覚士、公認心理師。 特別支援学校での進路指導の経験があり、現場をよく知る実践的な研究者。富士通株式会社やソフトバンク株式会社と産学官の共同研究も行っている。坂井 聡 さかい さとし19である。このランキングから見えてくるのは、日本の子どもたちは、身体的には健康なのだが、精神的な健康については課題が多いということである。 身体的に健康であるのは、学校などでの健康指導が功を奏し、健康管理ができている結果だと考えることができる。これはとても喜ばしいことである。メディアでも健康の問題はよく取り上げられ、健康問題には多くの人が関心を持っている。また、学校給食など、日本の制度も大きな役割を果たしているのかもしれない。医療技術が発達しているという点も、高評価に影響を与えているのだろう。 一方、精神的な健康についてはどうな 9月3日に国連児童基金(ユニセフ)が、新報告書『レポートカード16ー子どもたちに影響する世界:先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か』を発表した。このレポートは、子どもたちの精神的、身体的な健康と、学力・社会的スキルについてランキングしているものである。 総合順位を見ると、日本は先進・新興国など38カ国中の第20位で、大体真ん中あたりに位置している。しかし、項目ごとの順位を見て驚いた。精神的健康度は38カ国中37位、身体的健康度は1位、スキルは27位という結果になっていたからのだろうか。健康な身体に健康な精神は宿っていないという結果になっているのである。レポートでは、「家族からのサポートがより少ない子どもたち、いじめに遭っている子どもたちは、あきらかに、精神的健康がより低い結果となっている」と報告されている。 しかし、原因はこれだけではないだろう。小学校の校長になって特に感じるのは、学校という世界は、行動はみんな同じようにしなければならないという「平均主義」と、成績はほかの人よりも秀でるのをよいとする「競争主義」が共存する、矛盾した世界なのである。特別支援教育に代表されるように、個人を大切にしなければならないとはいっているのだが、周囲の子どもの行動と比較して、逸脱していると考えられる行動は、強く修正するという雰囲気が学校にはある。一方、成績については、人よりも点が取れたことが評価されるので、個人の結果が大切にされている世界だということなのである。 この世界に馴な染じむことができない児童は当然、自己肯定感が下がる。私がかかわってきた特別な支援が必要な児童は、どの子もこの学校世界への馴染みにくさを口にしていた。自己の能力が正当に評価されない世界だと感じるからであろう。このように精神的健康の低さは学校教育にも原因があると思うのである。 特別な支援を必要としている子どもたちも大人になる。何らかの形で社会参加していくのである。現状では、精神的健康の課題は先送りされ、その負担は支援している人たちがになうことになる。自己肯定感が低いまま社会参加せざるをえない状況になっているからである。 先日、学校の朝礼で児童にこのような話をした。「この学校は困っていたり悩んでいたりする子どもがいたら、特別扱いをする学校です。みんなと同じでないといけないことはありません。校長先生は、担任の先生にそのように伝えています。だから、ずるいとか、不公平だとかいうことはありません」。いろいろな人がいて、自分はそのなかの一人であると意識させたい。この子どもたちが将来社会を支える働き手となるからである。「そうなんです。自分はちょっとユニークなんです。でも大丈夫なんです」と、自信を持っていうことができるような社会を創っていきたいからである。*【第2回】あなたはどう思いますか?ユニセフのレポートユニークでも認められる社会を精神的健康度が低い原因は

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